それほど黒くないクロゴケ
原稿再録です。
MacOSでは「蒴」が文字化けするかもしれません。
サク(capsule、「朔」に草冠)です。
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ミズゴケ類とならぶ原始的蘚類であるクロゴケ類は、
分類学上はクロゴケ綱として独立させられており、1科
2属だけが含まれる。世界におよそ90種ほどが高緯度
地域や各地の高山など、おもに寒冷な気候の場所から知
られている。日本からは、クロゴケそしてガッサンクロ
ゴケのわずか2種が知られているにすぎない。
ガッサンクロゴケは高山帯に分布が限られ、雪田下の
など雪解け水が流れる小さな沢沿いの岩の側面に生え、
茎は長く伸びのが特徴的である。のびた茎は岩に張り付
くように生えているので、あまり目立つことはない。
ガッサンクロゴケは日本国内での産地が限られており、
環境省版レッドデータブックでは絶滅危惧植物に指定さ
れているが、白山や立山などでは比較的大きな群落をみ
ることができる。
もうひとつの日本産種であるクロゴケはごく普通種で
ある。世界に広く分布しているが、日本やアジアのクロ
ゴケは、雌雄性の違いにもとづいて変種レベルで区別さ
れている。山地から高山まで、特に稜線沿いの明るい場
所にある大きな岩の上などによく生育している。まれに
標高数百mほどの低山地から報告されることもある。岩
の表面にしっかりと固着した背の低い群落をつくるため、
指先でむしり取ろうとしてもなかなか難しい。晴天時に
は植物体が乾ききっているため壊れやすくなおさらである。
またクロゴケの群落は、その基部に風で運ばれた砂などが
多量にトラップされていてることが多く、標本が砂だらけ
にもなりやすい。少しづつ丁寧にとることが肝要なのであ
り、純群落をつくっているわりには採集するのがけっこう
面倒である。
クロゴケという和名から黒々としたコケを想像するかも
しれないが、実はその植物体はやや赤みを帯びた黒色をし
ている。他にもずっと黒い色のコケがいくらでもあるので、
なれないうちは野外では誤解しやすいかもしれない。色が
黒っぽいのは強い日射による光障害に対する適応なのだろ
う。
葉の細胞全面にパピラが発達しているのも、乾燥への対
処とともに入ってくる光を散乱させる役割があるのかもし
れない。乾いたときは植物体から水分が失われてカラカラ
になって休眠しているが、早朝の露や霧がでたりすると体
表面全体から水を急速に吸収して光合成を再開することが
でき、日中ひどい乾燥にさらされる環境に生育するうえで
うまく適合した性質を備えている。
乾燥したときには体内の水を急速に失って休眠に入り、
ひとたび雨がふれば体表全面から水を吸って急速に活動を
再開するこのような性質を「変水性(poikilohydry)」と
呼ぶ。石垣に生えるシダやイワヒバの仲間、地衣類などの
下等植物にはかなり一般的な性質で、コケ植物ではクロゴ
ケ以外にも、乾きやすい場所に生育する種類に広くみられる。
クロゴケ類が原始的とされる理由はいろいろあるが、
もっともわかりやすいのは蒴の裂け方である。一般にコケ
植物では蒴には蓋が分化していて、この蓋がはずれること
で胞子が外に出るための開口部ができるのだが、クロゴケ
の蒴ではこの蓋がもともと存在せず、かわりに蒴側壁中央
部に縦に4つの裂け目ができる。この裂け目から胞子がこ
ぼれでるのだが、その様子はルーペを使えばはっきりと見
ることができる。
クロゴケには蓋がないので、もちろんその内側に生じる
蒴歯もない。蒴がどのように裂開するかは、シダ植物の胞
子嚢、あるいは被子植物の果実の場合と同じで、分類学的
に重要な形質とされているのである。
クロゴケは一時ナンジャモンジャゴケとの類縁性が指摘
されたこともあるが、少なくとも蒴の裂開の仕方に関して
は、螺旋状に裂開線がはしり、ちょうどトイレットペーパ
ーの芯を開いたような感じになるナンジャモンジャゴケの
蒴とは全く異なっている。
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