こけ関係

2009年9月26日 (土)

お久し振り ナガサキツノゴケ君

R0010601
わかりにくいですが、濃い緑色がナガサキツノゴケ。
おとといの雨で地面が湿っているようすなので、
いつも観察している場所をのぞいてみると、
ナガサキツノゴケの小さな葉状体がでていました。
ほんの1-2mm程度の大きさです。

梅雨前に胞子をとばして枯れてしまったのですが、
今頃出てくるのですね。
胞子が発芽して原糸体がのび、1mm程度の植物体まで成長するには
ある程度時間がかかるでしょうから、発芽自体はもう少し前になるはず。

ということは、3,4ヶ月の休眠だったのかな?
暑くて乾いた時期をやりすごす、うまいやり方です。

| | コメント (0)

2009年9月 6日 (日)

ドイツのコケや地衣類をみるなら

ドイツのコケ・地衣類の分布図と写真が豊富に見られるサイト
  BLWG Verspreidingsatlas mossen online
http://www.blwg.nl/mosatlas/

ドイツ語ですが、サイト翻訳(たとえば、Internet Explore (ver.8)であれば、
右クリックで機能選択)で英語や日本語に翻訳してくれます。

ついでですが、こんなサイトもあります。
Bildatlas der Moose Deutschlands
http://www.milueth.de/Moose/Bildatlas/atlas.htm
蘚類の写真集販売のためのサイトですが、見本をたくさん見ることができます。

| | コメント (0)

2009年9月 1日 (火)

栽培に使った乾燥ミズゴケから仮根が生じること

5年前の原稿です。図は省略しています。
こういう内容のものは英語で書かないと、誰も引用してくれません。
反省すべき点です。

過湿栽培下におけるミズゴケ仮根の出現 
(Rhizoids of Sphagnum cristatum under cultivated condition.)

 筆者らはケゼニゴケ研究のために多数の個体を栽培している.
日本の園芸店で購入したニュージーランド産乾燥ミズゴケ
(Sphagnum cristatum Hampe)を,殺菌処理せずに水に戻し,
透明なプラスチック製カップに入れて,ケゼニゴケ栽培用の培地
として用いている.土の付いたままのケゼニゴケをミズゴケ上に
のせた後は,しっかりとフタを閉めている.このやり方は非常に
簡便であるが,カップの中が過剰な湿度状態に保たれるために,
栽培中に伸長したあたらしい葉状体が著しく本来の姿から変わって
しまうのが欠点である.

 ケゼニゴケの栽培は今年で4年目にはいり,実験が終わり処分
した分も含めるとカップの数は300を超えている.これらのカップ
内部のミズゴケは茶色のままで明らかに死んでいるのだが,ごく稀
に緑色のミズゴケが増えているものが見られる.筆者が観察した
限りでは,この再生はリボン状の原糸体を通じたものであった.
乾燥ミズゴケの細胞の一部が生き残っており,そこから原糸体が
生じ植物体が再生したものと思われるが,もともとの乾燥ミズゴケ
中に混生していたミズゴケ胞子から原糸体が生じたのか,あるいは
一部が生き残っていたミズゴケ細胞から生じたものかは,確かめる
ことができなかった.再生したミズゴケは,本来の大きさと比べると
著しく小さい.これは年齢が若いためか,あるいはカップ
の中にほとんど栄養分がなく十分に成長することができないためなの
かは不明である.オオミズゴケの野外集団を観察した経験では,群落
中に埋もれるように著しく小さいサイズの植物体が存在していること
がある.しかし蘚苔類を長期間培養した場合,植物体の形状が著しく
変わることも報告されている(Kitagawa 1984).おそらくは,
カップの中は長期間にわたって過湿環境が維持されているため,その
影響なのかも知れない.

 この再生したミズゴケを観察している際,その周辺をまばらに走っ
ている透明な糸状の構造物が目にとまった.詳しく観察し
てみると,茎の表皮細胞から生じている.必ず一細胞列
であり,細胞間の隔壁は垂直なものばかりではなく,ときには斜めに
なったものも観察された.リボン状の原糸体とは
あきらかに形態がことなっている.

 新しく生じた植物体の基部に位置するリボン状原糸体の側面からも,
4細胞よりも長い糸状の構造物が生じている.この構造物の細胞は,
内容物が充実している.長くのびた構造物では細胞間の隔壁は斜めに
なっているがことが多い.限定的な状況下ではミズゴケの原糸体も
糸状になることが知られているが(Goode & Stead 1993),その位置
関係と斜めになった隔壁から判断して,原糸体に生じた仮根であると
考えられる.

 それでは茎の表皮細胞から生じている糸状の構造物は,何に相当
するのであろうか.一般にミズゴケ類では,原糸体を除いては仮根が
生じないとされている.これまでに報告された例外は,ニューカレド
ニアから報告されたSphagnum novocaledoniae Paris & Warnst. in
Warnst.で,この種では茶色の仮根が茎に密生する(Iwatsuki 1986).
今回のカップ中のミズゴケから生じた糸状の構造物は,顕微鏡下では
わずかに細胞質を有していることがわかり(肉眼では透明に見える),
明らかにこの仮根とは状態が異なっている.しかしながら茎の表皮
細胞から不定的に生じること,糸状で長く伸びること,隔壁が斜めに
なる傾向が見られることなどから,これもまた仮根であると考えられる.

 今回観察されたミズゴケの仮根は,仮根と原糸体の関係,あるいは毛
(trichome)や毛葉など茎表皮細胞から不定的に生じる構造物と仮根との
関係など,発生時期や位置関係,そして形態的特徴からあいまいに区別
されている蘚類の器官については,今後の詳細な比較研究が必要なこと
を示唆しているのではないだろうか.

引用文献
Goode, J. A. & Stead A. D. (1993).  Experimental studies of protonemal
morphogenesis in Sphagnum: The role of growth regulations and the
cytoskelton.  Advances in Bryology 5: 129-151.

Iwatsuki, Z. (1986).  A peculiar New Caledonian Sphagnum with rhizoids.
Bryologist 89: 20-22.

Kitagawa, N. (1984).  Morphological modifications induced by the long-
period, aseptic cultivation in four species of liverworts.  Acta Phytotax.
Geobot. 35: 103-112.

| | コメント (0)

2009年8月13日 (木)

新種のコケ記載論文 英語ではものを考えられないこと

一度投稿してリジェクトになった屋久島の新種のコケ記載論文(記載とノートは
英文で、詳しい考察・検索表などを日本語で書いたのが審査員の逆鱗にふれて
しまいました、、、)、結局、妥協して、日本語の解説と英文の記載という、二つの
論文に分けることにしたのだが、ようやく英文版の方の粗稿が完成した。
これからまだまだ練り直さなければならないのだけれど、とりあえず分子系統を
担当してもらっているカナダの研究者に送って意見を求めることに。
学名はClastobryopsis yakumontana、和名は、ヤクシマコモチイトゴケしようと
決めています。
(-opsisという接尾辞をとると女性名詞になり、そのため種形容語も女性形の
yakumontanaになります)。

(この人は、中国系のシンガポール人で、ポスドクでカナダの大学に行っている
のですが、英語は私よりも数段上手です)。

なぜ和洋折衷の原稿をはじめに書いたかというと、悲しいことに、英語では
深く考察することができないからです。じっくり思考するためには、日本語で
考えて、日本語で書かなければならないのです、私の場合。
英語だと、ほんとうに表面をサラッとなぜでる程度の、つまり中学生程度の
ことしか考えられないのです。大部分は、語彙の問題なのでしょうね。
(だからこそ、「日本語が亡びるとき」を読んだとき、我が意を得たりと、深く感銘
したのでしょう。)

| | コメント (0)

2009年6月29日 (月)

苔類の分類体系が大きく変わっている

詳しくは,以下の論文を.

Crandall-Stotler, Stotler & Long. 2009
Phylogeny and classification of the Marchantiophyta
Edingurgh Journal of Botany 66(1): 155-198.

http://journals.cambridge.org/download.php?file=%2FEJB%2FEJB66_01%2FS0960428609005393a.pdf&code=489644073c78e1c1a52396b9fb4b0cce
(PDFファイルです)

概略は以下の通り.フタマタゴケ類が解体されています.

続きを読む "苔類の分類体系が大きく変わっている"

| | コメント (0)

2009年6月18日 (木)

オーストラリア植物園のウェブサイト キノコと苔

人から教えてもらったのですが,
Australian National Botanic Gardensのウェブサイトが
写真と解説,リンク集がとても詳しくて参考になります.

キノコ関係
http://www.anbg.gov.au/fungi/index.html

コケ関係
http://www.anbg.gov.au/bryophyte/index.html

コケのところでは,スプラッシュ・カップについての解説が
とても詳しく,たとえば実際どれくらい飛ぶのか,計測結果が
書かれていておもしろいです.
http://www.anbg.gov.au/bryophyte/splash-cups.html

花が好きな人はこちら.
あまりに写真が多すぎて,探すのがたいへんです.
http://www.anbg.gov.au/anbg/index-photo.html

| | コメント (0)

ゴヘイゴケ亜科苔類のツリゴン(トリゴン)

ゴヘイゴケ亜科に分類される属は,クサリゴケ科の中で腹葉が全縁(二裂しない)のが特徴.
いくつも属があってなかなか識別するのが難しいのですが,枝別れの様子と,葉細胞のツリゴン
(trigon:トリゴンともいう)の形,そして生植物の場合には油体の形と数が分かれば,けっこう
機械的に属を決めることができる,,そうです.(苔類をよく知っている人にとっては,このような
決め方は邪道に思われるのかもしれないですが).

図鑑をみると,ツリゴンの形に『二辺が凹み,一辺が膨らむ」との記述があるのですが,
これが実際にはどういう状態を示すのか,実にわかりにくいと感じていました.

たまたま材料が手に入ったので,自分の勉強のためにツリゴンの写真を撮ってみました.
ツリゴン(トリゴン)とは,細胞と細胞が接するカドの部分を指します.細胞と細胞が長く
接するところがへこんでいるのは,「中間肥厚」といいます.

二辺凹,一辺凸の例 
フルノコゴケ Trocholejeunea sandvicensis
Photo
 数年まえの標本から写真を撮ったので,油体は写っていません.もっとも,
フルノコゴケは乾燥に耐える種なので,半年くらいだと油体も残っているようですが.

三辺ともに凹む(これが苔類全般で通常のかたち) 
シロクサリゴケ属の種 Leucolejeunea sp.
Photo_2
 半年前の標本ですが,ブドウ房状の大きな油体が写っています.

三辺ともに凹む 中間肥厚強い 細胞と細胞の間に線が見える 
ナミゴヘイゴケ Spruceanthus semirepandus
Spruceanthus
 図鑑では三辺ともへこむと書かれていますが,へこんだところの中央が突出しているので,
三辺とも突出するとした方が誤解が生じないのではと思うのですが.
すごい中間肥厚が見えています.
これも半年前の標本ですが,これも油体が残っています(小さくて20-30個,均質).

| | コメント (0)

2009年6月 3日 (水)

美しいコケの写真

ドイツ語のサイトなのですが,
掲載されている写真が,なんとも和風で素敵です.

下のURLをクリックすると表紙に飛びます.
枠の上にある蘚類(Laubmoose)か苔類(Lebermoose)の
ボタンを押すと,それぞれの写真集にたどり着きます.

http://www.pflanzenliebe.de/innen/innen_moose/innen_moose.html

| | コメント (2)

2009年5月31日 (日)

ミズゴケの仲間は同定が難しい

Photo
ハチ北の観察会で訪れた湿地は,乾燥化が進んでヤマドリゼンマイや
レンゲツツジなどがかなり侵入している.
それらの木や草の下でひっそりと生えているミズゴケ.このミズゴケの種類が
調べてもよくわからない.葉の断面の様子や透明細胞の穴の空き方などから
ゴレツミズゴケのようなのだが,葉がはっきりとは五列に並ばないし,植物体の色味も
図鑑の記載と異なる(まだ5月なので,植物体の色は当てにならないかも
しれないが).

近畿地方からミズゴケ属は9種が知られており,そのうちのどれかなのだろうけれど,
どうもすっきりと同定できないのがもどかしい.
もう一度資料をあつめて標本を検討して,いちから勉強しなおさなければ.

ちなみに近畿地方で見られるミズゴケは以下の9種.(出典 中島徳一郎1970)
オオミズゴケ
コアナミズゴケ
ハリミズゴケ(京都深泥が池,滋賀県小松.兵庫県甲山からも報告があるが,現状不明)
ホソバミズゴケ
ホソベリミズゴケ
ゴレツミズゴケ
ヒメミズゴケ(氷ノ山のみ)
ウロコミズゴケ(大台と大峰の数カ所)
ワタミズゴケ(大台周辺のみ?)

| | コメント (0)

2009年3月20日 (金)

読んだ苔の本 Mosses And Liverworts

Mosses And Liverworts
(Collins New Naturalist Series)  (ハードカバー)
Ron Porley (著), Nick Hodgetts (著)
日本のamazonで購入.約5500円.(40£)

日本語の本では,まだこういった趣のものは出ていないだろう.
代表的な生育環境ごとに,そこに生えている蘚苔類について
詳しく解説した本.ただし舞台は英国なのだが.
それでも,日本と同じ種がたくさん出てくるので,参考になる.

愛書家向け的側面もあるので,英語の単語が見慣れないものが多く,
また少し文章が凝っているので,やや読みづらいのが辛いところ.
それと,英国の細かい地名が頻出するので,そこは読み飛ばすしかない.

イングランドやスコットランド独特の生育地を示す単語(例えばturlough)や
湿地に関する細かい区分けなどがでてきて,いちいち辞書を調べなきゃならない
のだが,それもある意味おもしろい.

数多く掲載されている写真はすばらしい出来で,蘚苔類の美しさを堪能できる.
写真を眺めるだけでも,買って手元に置く価値あり.

同じ属であっても,種によってその好む生育環境が微妙に異なることが
たくさんの事例で説明されている.今まであまり気にせずにいた点なので,
これが一番勉強になったところ.読了後の今,野外で苔をみるとき,
これまでとはちがった見方ができるようになる気がする.

それと,英国では,各種についての非常に詳しい分布情報が収集・整理され,
保全などの活動に役立てられていることもよくわかった.英国コケ学会会員の
永年に活動の成果なのだろう.

世界でたった一箇所,それも一つの岩の上だけでしかみつかっていない
Thamnobryum angustifoliumにまつわる話の数々も,興味深いものだった.

随所に挟み込まれる,英国蘚苔類学者の列伝は,知らない人もたくさんいて
それなりにおもしろいのだけど,ちょっと深みにかけるきらいがある.

| | コメント (0)

2009年2月 9日 (月)

蘚類のさく(蒴)歯の動き

 植物の特徴といえば,なんといっても光合成によって自ら必要な栄養分を

つくりだすことです.雨と太陽の光さえあれば光合成が可能ですから,動物の

ようにエサを探して動き回る必要がありません.いつも同じ場所に根を張り

じっとしていて,いつのまにか花をつけ実を結び枯れてゆく,これが植物の

生き方だと言えます.植物がテレビ番組や雑誌で取りあげられる機会が

動物にくらべて圧倒的に少ないのも,植物には動きが乏しく動物のように

絵になる場面が撮影できないのがおもな原因なのでしょう.

  そんな植物でも高速度カメラを使って時間を圧縮してみると,いろんな動きを

していることが分かります.コケ植物もしかり.とても小さなからだではありますが,

おもしろい動きを見せてくれます.なかでも一番観察が容易で動きもダイナミック

なのが,朔歯の開閉運動です.

 朔歯というのは蒴の開口部を縁取る歯状の突起のことで,蘚類だけにある

器官です.胞子の散布量とタイミングを調節する役割をになっていると考えられ

ています.この突起が,大気中の湿度の変化に応じて開閉運動を行うのです.

それもゆっくりとではなく,見ている目の前でググッと動きます.虫眼鏡で

のぞきながら,水滴のついたピンセットなどを近づけてやると,水滴から蒸発する

水分に敏感に反応して,蒴歯が激しく動く様子をみることができます.

 なぜ蒴歯にはこのように激しい動きが可能なのかには理由があります.朔歯を

つくる細胞の細胞壁は,成長の過程でさまざまな物質が沈着することで少しずつ

厚くなってゆきます.蒴が成熟して朔歯が完成される段階では,これらの細胞は

死んでしまい厚くなった細胞壁だけが残されます.隣り合った細胞の細胞壁が

背中合わせになって残ったものが朔歯というわけです.コケの種類によって

細かい部分は異なりますが,蒴歯というのはこのように2枚の板が背中合わせで

張り合わさっているのが基本です.実はこの肥厚した部分をつくる物質の種類と

厚みが裏と表の二枚で違っていて,水分の吸収のしやすさが異なるのです.

吸収しやすい側は水を多量に含むことで膨張しますが,その反対側はあまり

変化がありません.その結果,水を吸収しにくい物質からできている側に反る

ことになるのです.さまざまな電気器具に使われているサーモスタットは,温度

による膨張率の異なる2枚の金属を張り合わせたものです.蒴歯の構造は,

まさしくこのサーモスタットと同じで,温度ではなく湿度に反応する点が異なる

だけです.蘚類の中には蒴歯が二重に配列されている(それぞれ外蒴歯,

内蒴歯といいます)グループがありますが,内側のものは一層の細胞だけから

成り立っていますので,開閉運動はしません.

 この蒴歯の動きは果たす役割については,昔から様々な説が唱えられていました.

ひとつは蒴の中の胞子を外にとばす役目,もう一つは朔歯の役割はフタであって,

胞子をとばすタイミングを開閉によって調節するというものです.確かに開閉する

朔歯によって胞子が外に掻き出されることはありますが,たいした量ではありません.

現在では,後者が主流の考え方のようです.

 水を吸収しやすい物質が朔歯の断面で表側の肥厚部にあるのか,あるいは

その反対なのかによって,湿ったときに蒴歯が開くのか,乾燥したときに開くのか

という違いが生じます.この違いは,ある蘚類にとって胞子を放出するのが大気が

湿った状態が望ましいのか,その反対に乾燥した時が望ましいのかを強く反映

しています.具体的にいうと,木の幹や枝の上に生える種類では,湿ったときに

蒴歯が開きますが,地上性の種や乾燥した場所に生えるグループでは,乾燥した

ときに開くものが多いのです.木の幹に生えるコケは雨が降ったときに胞子を

出せば同じ木の幹に胞子をばらまくことができますし,地面に生えるコケでは

乾燥した風の強い時に胞子を出せば,遠くまで胞子が運ばれる可能性が高く

なります.このように,とても小さな蒴歯の開閉運動一つをとっても,植物の形は

とても合理的にできているのは驚きです.

 何度か開閉を繰り返すと,蒴歯はぼろぼろになって壊れてしまいます.

もうそのころには胞子もほとんど飛んでいってしまっており,蒴歯はすでにその

役目を終えているのです.

| | コメント (0)

2009年1月20日 (火)

コケ植物と他の植物の関わり

すこし古いのですが,いちばんよくまとまっていると思います.

Bryophygte inteaction with other plants
H. J. During & B. F. van Tooren
Botanical Journal of the Linnean Society 104: 79-98 (1990).

「コケと植物(菌類やバクテリアを含む)との関わり」についての総説です.

目次
相互作用のタイプ分け
競争
寄生
腐生
相利共生
 窒素同化生物との提携
 菌根
維管束植物への影響
 種子捕食(の回避)
 発芽と初期生長
 未生の生き残り
結語
謝辞
文献

コケ植物の仮根にも,VA菌根に似た構造が見られることや,木本植物の種子発芽に対して,
負の影響がいくつもの事例で知られていることをはじめて知りました.
菌類は,ほんとうに,様々な植物と一緒に生きているのですね.

また,土壌中の菌類から未生をまもる役割については,なぜか触れられていません.

Botanical Journal of the Linnean Society 104(1-3)は,コケ関係の総説の特集になっています.http://www3.interscience.wiley.com/journal/119844120/issue

| | コメント (0)

2008年12月13日 (土)

受精後に伸長するバギニュラ

蘚苔類の造卵器は,短い枝の先端に位置している(頂生という).
受精後,胞子体が伸びる際には,その先端はカリプトラに覆われていて,
繊細な頂端部を乾燥などから保護する役目を果たす.

このカリプトラがどの部位に由来するのか,あるいは胞子体の根本(足)が
造卵器を頂生させていた枝の中にどのように入り込んでいるのか,これは
分類群によってずいぶんと違っていて,時には属内でも様々な変異が見られる
ことがある(例えばリボンゴケ属).

胞子体の足が成長して枝の組織の中に入り込んでゆく際には,枝の方も
同時に成長することがある.胞子体の足を包み込む部位はバギニュラと
よばれるが,特に短枝に造卵器ができている場合,バギニュラが長く伸びる
ことで,通常の枝と変わらないほど伸びることがある.

下に掲載したのは,Symphyodonウニゴケ属(蘚類ウニゴケ科)の雌株.
→が示しているのは受精前の造卵器群で,ごく短い短枝先端に雌苞葉に
囲まれた造卵器がクロっぽく見えている.
左側に伸びているのは,成熟した胞子体の基部の部分.胞子体の柄が
つながる部分は一見すると枝のようだが,ここがバギニュラである.
全長のおよそ半分くらいのところまで,胞子体の足が入り込んでいる.
(足の部分で,配偶体と胞子体の間で栄養の受け渡しが行われている).

このようにバギニュラが伸長するのは,蘚類でごく一般的な現象のようだ.

Photo

| | コメント (0)

2008年11月16日 (日)

コケ人間

Moss Men from Bejar
へえー,こんなお祭りが有るんですね.

http://www.i-bejar.com/reportajes/hombres_musgo.asp
http://www.flickr.com/photos/i-bejar/543850328/in/photostream/

| | コメント (0)

2008年11月14日 (金)

コケとエゾマツ実生

おや,こんな論文があるんですね.
「倒木上のコケの高さがエゾマツ実生の生残と成長に与える影響」
飯島勇人他(2004年 日本林學會誌)
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006279083/

見つけたのは,以下のサイトで紹介されていたからです.
感謝.
http://blog.livedoor.jp/sakumad2003/archives/2008-11.html

| | コメント (0)

2008年11月 5日 (水)

コケ植物の本(英語) 新刊

コケ植物の本,新刊です.

Goffinet & Shaw (eds.) 2009
Bryophyte biology second edition
Cambridge Universtiy Press

アマゾンのサイトでは8002円の予約価格でしたが,
円高のおかげで,6661円で購入できました.

内容については,
http://www.nhbs.com/bryophyte_biology_tefno_98829.html&tab_tag=desc
などの紹介サイトをご覧ください.

絵や写真でコケ植物を紹介する本ではありませんので,その目的で
買うとがっかりします.

初版は,グーグルのブック検索で,かなりの部分を見ることができます.
http://books.google.co.jp/books?id=fuOKCOlRngkC&dq=Bryophyte+biology&pg=PP1&ots=Wr3jHXWJc7&source=bn&sig=56bPjBwiaPu2cXTXGH44Cd9zr_Q&hl=ja&sa=X&oi=book_result&resnum=4&ct=result#PPA5,M1

| | コメント (0)

2008年10月11日 (土)

日本産クモノスゴケ属の識別について

前回6月8日に,クモノスゴケ属の見分け方について記事を書きましたが,
http://bryologist.blog.eonet.jp/default/2008/06/post-8b14.html

その後よりわかりやすく書かれている文献がありましたので,とりあえず
出所だけを紹介しておきます.

水谷正美 1988.  日本産クモノスゴケ属4種. 蘚苔類研究 7巻6号 181-183.

| | コメント (0)

2008年9月22日 (月)

コケ植物の形態多様化への道筋

『自由生活するコケ植物配偶体がたどった形態多様化の道筋』

 コケ植物は3つの系統群、つまり蘚類、苔類、ツノゴケ類からなりたっている。これら3群の関係ならびに各群内の多様化の道筋は、分子系統学の発展によって近年解明が進んでいるが、コケ植物全体がはたして単系統群なのか、陸上植物の中でもっとも初期に分岐したのがツノゴケ類なのか苔類なのか、あるいは未知の生物群なのか、根本的な問題についてはいまだ定見がない状態である。古生代からはコケ植物の大型化石がほとんどみつかっていないことも、起源についての疑問を助長している。しかし、初期の陸上植物の形状をさぐる上で、コケ植物の配偶体のあり様を詳しく研究することは大いに貢献するはずであり、実際に近年の微化石(四分胞子や表皮の断片)の解析によっていくつかの重要なデータが出始めている。

 コケ植物とは、配偶体世代が生活史の中で優占する、有胚植物である。これに付随して、配偶体には「根」に相当する器官がない、維管束が分化しない(通導組織はある)、精子をつくる、胞子体は配偶体に半(全)寄生し、決して分枝せず(奇形を除く)、先端に単一の胞子嚢をつくる、といった共通する性質をもつ。原生の蘚類は4亜綱(ミズゴケ、クロゴケ、ナンジャモンジャゴケ、マゴケ)、約100700~900属、10000~12000種、苔類は2亜綱(ゼニゴケ、ウロコゴケ)73科約3605000~8000種、ツノゴケ類は25属約150種からなり、種多様性の面からはシダ植物を凌駕する発展を示している。またこの種多様性を反映するように、配偶体の形態もおどろくほど変化に満ちており、それは配偶体が生活の主相であるがゆえに、配偶体の形状が著しく多様化したためである。だてに2万種ものコケ植物が現代に存在するわけではないのだ。

 形態と種の多様化は、あらたな生活域、とりわけ着生という生育手段を獲得したことによる所が大きい。特に苔類では、すべての属のうち約半分、種数では2/3が、着生種を多く含むクサリゴケ科ただ一つに含まれている。蘚苔類の形態の多様化は,1)着生に伴う特殊化ならびに、2)乾燥への適応、3)受精機会の獲得、この3つの観点から考えることができる.

| | コメント (0)

2008年9月21日 (日)

コケ植物を同定するために必要な文献

広島大学デジタルミュージアムの中に,
分類(同定)をするための,グループごとの
基本的な文献がリストアップされている.
http://www.digital-museum.hiroshima-u.ac.jp/~museum/pages/kokeliterature/kokelitera3.html

最近のものがリストされていないのが,とても参考になる.
手に入りにくいものが多いが,実はこのほとんどを自分で
PDFファイル化している(圧縮していない状態で約17GB,
およそ7800点の論文と単行本).著作権の関係で公に
できないのが残念.
(アンダーグラウンドでは,少しずつながら広まってはいるのだけれど).

こういう資料は,アクセスが容易でなければあまり存在意味がないのだが,
なんとかならないものかなぁ.

| | コメント (0)

2008年9月14日 (日)

コケを観察するときの必需品 先の尖ったピンセット

尖ったピンセットは,苔を観察するときにとても大切な道具ですが,
なかなかこれといったものに出会えません.先端がとがっていて,
柔らかい腰のものが(疲れないので)ベストなのですが.

時計修理用ピンセットのカタログ
http://www.seirinsha.net/2.html
http://domani.main.jp/a-tweezers.htm
http://www.okenshoji.co.jp/tweezer.htm

私は,大阪の時計屋さんから仕入れた鉄製のピンセット(6000円)を,
油砥石と精密機械油で研いで使っていますが,細くしすぎると,少しの力で
先が欠けてしまいますので,毎年短くなっていきます....
それと,製品の質(特に腰)が安定していないのも難点で,これまでに頼んだ
数本,いずれも重さ,腰,長さがちょっとづつ異なります.このピンセット,
残念ながらメーカー,型番等がわかりません.

ひとつの方法として,ショウジョウバエ解剖用器具の作り方のサイトに,
尖ったピンセット,解剖用ナイフの作り方が紹介されています.
http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/html/manuals/pdf/J_CNS_Dissection.pdf

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ピンセットそのものからはずれますが,

○蘚苔類学会報に,興味深い記事が掲載されています. 

 出口博則 「極細解剖針の作り方」 4巻7号117-118頁  
  タングステン線(でしたっけ?)を,電極にして,電気分解を利用して  
  尖らせる手法の紹介です. 

 出口博則 「切片作成中の葉の乾燥防止方法」 3巻7号113頁 

○「こけ雑記」の「たわごと」にも,苦労してテクニックを磨かれている様子が 
 書かれていて,とりわけ,葉の断面作製についての記事が参考になります. 
   http://zakki.sakura.ne.jp/moss_index/moss_talk.htm

○切片をつくるときに使う,フェザー 両刃カミソリ(炭素鋼) 
  http://www.feather.co.jp/jGeneral_Mens01.htm   
  ハイステンレス製はやや切れ味が劣るとの感想を見たことがあります.  
  以前,そのうち無くなるという噂を聞いて大量に買い込んだのですが,  
  まだ売られているようです.  
  たとえば,http://www.3275.jp/jimuhin/cutter.htm   

○キノコでの切片の作り方紹介(ハンドミクロトーム)  
  http://kmal.hp.infoseek.co.jp/microscope/hand-microtome/index.htm

| | コメント (0)

2008年9月 6日 (土)

最新の蘚類分類体系が提唱される

最新が最善とは限りませんが,

分子系統解析に基づく,新しい蘚類の分類体系が提唱されています.
出版はこの11月にでる「Bryophyte Biology」の中の一つの章として
なのですが,著者の一人のWebsiteでその体系がすでに公開されています.

http://www.eeb.uconn.edu/people/goffinet/Links.html

分子系統の成果を素直に盛り込むと,つまり単系統性をそのまま
体系に反映させると,科の数が増える傾向にあるのですが,たしかに
今回の結果もそうなっています.これにはたくさんの異論がでてくるでしょう.

それと,匍うコケの仲間(BrachytheciaceaeやHypnaceae,
Sematophyllaceae, Thuidiaceaeなど)では,属の移動が
かなり激しいようです.頭がクラクラしてきそうになります.

Leucobryaceaeも,メンバーがかなり入れ替わっていて,
びっくりです.

ナンジャモンジャゴケは,ここでは蘚類に含められていますね.
解析の仕方によっては,蘚類でも苔類でもない,もっとも原始的な
分類群となる結果が得られることもあり,これからの検討課題の一つ
なのでしょう.

| | コメント (0)

2008年8月11日 (月)

ミズゴケ科(蘚類) 資料

10年以上前に作って,さらにまだ抜けの多い資料ですが,
とりあえず載せます.

最後の「文献」には載せていませんが,次の論文がとても参考になります.
滝田謙譲 1999  「北海道におけるミズゴケの分布及びその変異について」 
Miyabea No.4  (北海道大学植物園発行)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ミズゴケ科 Sphagnaceae
  世界で2属,日本ではミズゴケ属1属からなる。

ミズゴケ属 Sphagnum
 世界におよそ150種。これまでに記載された種は300に上る。
 日本に何種が分布するのかは、それぞれの研究者の種に対する見解によって異なる。ミズゴケは非常に変異の大きな分類群であるため、多くの混乱が生じるものと思われる。ミズゴケ類の形態の変異性が非常に高い様子については、Suzuki (1955, 1958)、あるいは小野(1983)を参照されたい。
 Crum(1993, p.10))は次のように、外部形態だけに頼った分類を戒める言葉を記している;
”..., it is well to remember that the species of Sphagnum occupy ecological
niches and ranges of distribution related to origin and migration.  Species
concepts can be confirmed by a consideration of ecology and phytogeography, as
well as morphology.  Unfortunately, in some parts of the world, the species and
the part they play in nature are poorly understood, and specific worth can be
based only on dried specimens, and few of them, rhater than living entities."

 小野(19??)は、問題のある分類群を除いて日本産全種についての検索表を発表しているが、それによると日本には少なくとも32種(変種、亜種は除く)が分布することになっている。一方Iwatsuki (1991)による日本産蘚類チェックリストによれば、日本には変種、亜種も含めて68分類群(47種)があることになっている。
 地域ごとのリストも、これまでにいくつか発表されている。長野県のミズゴケについては松田(1974)、尾瀬についてはHorikawa & Suzuki (1954)、北海道はSuzuki (1955)、近畿のミズゴケについては中島(1970)、また筆者は未入手だが吾妻山のミズゴケが小野(1979, 19??)にまとめられており参考になる。
 

節への検索 その1(原色図鑑を一部改変)
1。茎の皮層細胞には細い螺旋状の肥厚が見られる。枝葉は広卵形または円状楕円形、葉縁に
  歯がある                           A オオミズゴケ節
1。茎の皮層細胞に螺旋状の肥厚はない。枝葉は卵形または披針形、葉縁は普通全縁   2
2。枝葉の先端はかなり幅広く切頭、横断面で葉縁細胞は小さくて楕円形、背腹両側とも表面
  に出ない                                   3
2。枝葉の先端はせまく鋭頭、または狭く切頭、時に広く円頭、横断面で葉縁細胞は普通一方
  または両側で表面に出る                            4
3。枝葉は広い卵形で、茎葉とほぼ同長、枝の表面の透明細胞には大きなレトルト状の細胞と、
  小さい孔のない細胞の2種がある               B キレハミズゴケ節
3。枝葉は長い卵形で、茎葉よりもずっと長い。枝の表面の細胞はほとんど同大で、全ての細
  胞の上端に孔がある。                     C キダチミズゴケ節
4。枝葉の透明細胞の背側には多くの小さな孔が膜に沿って一列に並ぶ。側方に広がる枝も茎
  に沿って垂れ下がる枝も、ほとんどが同長で湾曲する      D ユガミミズゴケ節
4。枝葉の透明細胞の背側の孔の数は少ない。茎に沿って下垂する枝は側方に広がる枝よりも
  ずっと長く、その差は明瞭                           5
5。枝葉は尖端の1/3ほどが顕著に反り返る。葉緑細胞は横断面で背・腹側どちらにも達し
  ない。(茎葉の舷は基部に限られる。)            G ウロコミズゴケ節
5。枝葉は反り返らない。葉緑細胞は横断面で背・腹側のいづれかにより広く開く。   6
6。葉縁細胞の横断面で腹側により広く開く。植物体は緑色、赤色または褐色をおび、光沢は
  ほとんどない                        E ホソバミズゴケ節
6。葉縁細胞は横断面で背側により広く開く。植物体は緑色、黄色または褐色。(茎葉の縁に
  は普通細長い細胞からなる舷がある               F ハリミズゴケ節

節への検索 その2(松田1974より;キレハミズゴケ節をふくまない)
1。茎及び枝の皮層細胞には螺旋状の糸があり、茎葉には舷がない。枝葉は広いボート状でく
  ぼみ、僧帽状で先端の背面に鱗状の突起がある。         A オオミズゴケ節
1。茎及び枝の皮層細胞には螺旋状の糸がなく、枝葉の先端は截形で鋸歯がある    2
2。枝葉断面で緑色細胞が楕円形から樽形で、ほぼ中央にあり、透明細胞には半月形に内側に
  突出した膜がある                      C キダチミズゴケ節
2。透明細胞には半月形に内側に突出した膜がない                  3
3。茎葉は大形舌状で先端は糸総状で、目はあらく、透明細胞には糸がない。舷は基部でわず
  かに広くなる                        G ウロコミズゴケ節
3。茎葉は小型、舷は基部で広くなる。枝葉は覆瓦状または5列に並んで枝につく    4
4。枝葉断面で緑色細胞は樽形または四辺形で背面と腹面に達する。枝葉背面の透明細胞の膜
  には小形の孔が透明細胞の接合面に沿って並ぶものが多い。枝葉先端は鎌状に一方に曲が
  る。                            D ユガミミズゴケ節
4。枝葉断面で緑色細胞は三角形または四辺形で、背面または腹面の一方に接する    5
5。枝葉断面で緑色細胞は葉の腹面(内側)に接する        E ホソバミズゴケ節
5。枝葉断面で緑色細胞は葉の背面(外側)に接し、乾けば波打つ   F ハリミズゴケ節

Crum (1984)による節への検索表 (日本に産しない節も含まれている)
1. Cortical cells of stems and branches reinforced by delicate spiral fibrils; branch
   leaves broad, broadly pointed, and cucullate-concave, rough at back of the apex,
   denticulate at the margins and bordered by a resorption furrow.      Sect. Sphagnum
1. Cortical cells not reinforced by spiral fibrils; branch leaves generally narrower
   and usually tapered to a slender, truncate apex, involute-concave, not cucullate
   or rough at the apex, only rarely denticulate at the margins or with marginal
   resorption.                                                                       2
2. Cortical cells of branches uniform, each with a single pore at the upper end; stem
   leaves very small; branch leaves broadly truncate, denticulate at the margins and
   bordered by a resorption furrow.                                       Sect. Rigida
2. Cortical cells of 2 kinds, some without pores, others enlarged, apically porose,
   and retort-shaped; stme leaves usually not particularly small; branch leaves
   usually tapered to a narrow, truncate apex (only rarely rounded or broadly
   truncate at the apex), nearly always entire except across the apex, bordered by
   linear cells and very rarely with marginal resortion.                             3
3. Plant aquatic; branch leaves with hyaline cells very long, scarcely broader than
   the green cells, without fibrils but with nurmerous to many pores on the outer
   surface (about 8-20 in 1 row or 15-60 in 2 rows).                   Sect. Isocladus
3. Plants mostly not aquatic; branch lleaves with hyaline cells distinctly broader
   than green cells, with fibrils (except in S.splendens in sect.Cuspidata), with
   pores usually no more than about 8 on the outer surface.                          4
4. Stems simple, forked, or with 1-3 short branches per fascicle.                   5
4. Stems with 3 or more branches per fascicle.                                      6
5. Stems simple or with 1-3 short  branches per fascicle; hyaline cells of branch
   leaves with thick annular fibrils almost completely dividing the cells into series
   of squarish segments, without pores on the outer surace (but rarely with 1-4 round-
   ed membrane gaps), with short membrane pleats oriented in various directions in
   each segment.                                                       Sect. Hemitheca
5. Stems simple, forked, or sparsely and irregularly fasciculate; hyaline cells with
   narrow fibrils, on the outer surface with few to numerous pores, with membrane
   pleats none or longer and orientted lengthwise.          Sect. Subsecunda (in part)
6. Branches in fascicles of 6-12; capitulum conspicuously large, rounded, dense; stem
    leaves very small; branch leaves widely recurved when dry.         Sect. Polyclada
6. Branches in fascicles of 5 or fewer; capitulum usually not conspicuously large and
   dense; stem leaves usually not notably small; branch leaves not widely recurved
   when dry (though sometimes spreading at the tips when dry, rarely squarrose from
   an erect base wet or dry).                                                        7
7. Plants often tinged with orange-yellow; branches of the capitulum usually curved;
   branch leaves usually ±secund; hyaline cells of branch leaves usually numerous
   and crowded in bead-like rows along the commissures on 1 or both surfaces.
                                                            Sect. Subsecunda (in part)
7. Plants green, yellowish, brownish, or reddish; branches not or very rarely curved;
   branch leaves erect or variouly spreading, not or rarely subsecund; hyaline cells
   with pores not particularly numerous, not crowded in commissural rows.            8
8. Plants commonly red or red-tinged; green cells of branch leaves triangular to
   trapezoidal, exposed exclusively or more broadly on the inner surface.
                                                                      Sect. Acutifolia
8. Plants not reddish; green cells exposed equally or more broadly on the outer
   surface.                                                                          9
9. Branch leaves broadly ovate and broadly truncate; hyaline cells of branch leaves
   with pores on the outer surface grouped in 3's at adjoining corners; green cells
   truncate-elliptic in section, equally exposed on both surfaces.      Sect. Insulosa
9. Branch leaves more elongate and more tapered; hyaline cells of branch leaves with
   pores not conspicuouly in 3's; green cells triangular to trapezoidal in section,
   exposed exclusively or more broadly on the outer surface.                        10
10. Plants of wet depressons, sometimes aquatic; stem leaves extenseively resorbed on
   the inner surface of hyaline cells, in a few species resorbed on both surfaces
   across the apex or down the middle (resulting in laceration); branch leaves often
   undulate at the margins when dry; hyaline cells smooth.             Sect. Cuspidata
10. Plants of wet habitats but not aquatic; hyaline cells of stem leaves mostly
   resorbed on the outer surface except at the apex where both surfaces are resorbed
   (resulting in perforation and slight fringing); branch leaves not undulate when
   dry (squarrose from an erect base wet or dry or ± spreading at the tips when dry);
   hyaline cells of branch leaves commonly very finely papillose on the inner surface
   of walls lying adjacent to green cells.                             Sect. Squarrosa

各節ごとの、日本に分布する種(疑問種も含む)
A オオミズゴケ節 Sect. Sphagnum (日本産4種)
     フナガタミズゴケ Sphagnum imbricatum
     ムラサキミズゴケ Sphagnum magellanicum
     イボミズゴケ Sphagnum papillosum var. papillosum
   フトミズゴケ Sphagnum papillosum var. confertum
     Sphagnum papillosum var. riparium
     オオミズゴケ Sphagnum palustre var. palustre
     ウスアオミズゴケ Sphagnum palustre var. pallescens あやしい
     アオオオミズゴケ Sphagnum palustre var. virescens あやしい

B キレハミズゴケ節 Sect. Insulosa (Sect. Truncata) (世界に1種)
   キレハミズゴケ Sphagnum aongstroemii

C キダチミズゴケ節 Sect. Rigida (日本産1種)
   キダチミズゴケ Sphagnum compactum var. compactum
     カワラミズゴケ Sphagnum compactum var. inbricatum

D ユガミミズゴケ節 Sect. Subsecunda (日本産7ー8種;固有種が多い)
   コバノミズゴケ Sphagnum calymmatophyllum
   ?Sphagnum contortum (日本では霧が峰のみに産する。ユガミミズゴケの異名
              とされることもある)
      クシロミズゴケ Sphagnum kushiroense
     ガッサンミズゴケ Sphagnum guwassanense ssp. guwassanense
    イトミズゴケ Sphagnum guwassanense ssp. takedae (霧が峰特産)
     ミツアナミズゴケ Sphagnum guwassanense ssp. triseriporum
   コアナミズゴケ Sphagnum microporum
   ヒロハミズゴケ Sphagnum platyphyllum
     シタミズゴケ Sphagnum subobesum
   ユガミミズゴケ Sphagnum subsecundum

E ホソバミズゴケ(スギバミズゴケ)節 Sect. Acutifolia  (日本産11種)
      スギバミズゴケ Sphagnum nemoreum
     ヒメミズゴケ Sphagnum fimbriatum var. fimbriatum
     Sphagnum fimbriatum var. compactum
     ヒロハノヒメミズゴケ Sphagnum fimbriatum var. latifolium
     ノリクラミズゴケ Sphagnum fimbriatum var. norikusae
     チャミズゴケ Sphagnum fuscum
     ホソバミズゴケ Sphagnum girgensohnii var. girgensohnii
     チャボホソバミズゴケ Sphagnum girgensohnii var. squarrosulum
     ホソベリミズゴケ Sphagnum junghuhnianum ssp. junghuhnianum
     コバノホソベリミズゴケ Sphagnum junghuhnianum ssp. pseudomolle
     ゴレツミズゴケ Sphagnum quinquefarium
     ミヤマミズゴケ Sphagnum russowii
     ウスベニミズゴケ Sphagnum rubellum
    ?ワラミズゴケ Sphagnum subfulvum (Iwatsuki 1991に載っていない)
     ヒナミズゴケ Sphagnum warnstorfii
     
F ハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata
     ハクサンミズゴケ Sphagnum acutum var. hakusanense
     アオモリミズゴケ Sphagnum flexuosum
     Sphagnum angustifolium
      Sphagnum obtusum
     Sphagnum majus
         = S. dusenii, S. majus var. dusenii
      サンカクミズゴケ Sphagnum fallax
     ハリミズゴケ Sphagnum cuspidatum var. cuspidatum
     ノコギリミズゴケ Sphagnum cuspidatum var. serrulatum
     シワミズゴケ Sphagnum cuspidatum var. submersum
     シナノミズゴケ Sphagnum jensenii
     フサバミズゴケ Sphagnum lindbergii
     ウツクシミズゴケ Sphagnum pulchrum
     サケバミズゴケ Sphagnum riparium
   セイタカミズゴケ Sphagnum riparium var. coryphaceum
     ワタミズゴケ Sphagnum tenellum var. tenellum
     Sphagnum tenellum var. rufescnes
     
G ウロコミズゴケ節 Sect. Squarrosa (日本産2種)
   ウロコミズゴケ Sphagnum squarrosum
      ホソミズゴケ Sphagnum teres

各節ごとの種への検索表
A オオミズゴケ節の種への検索表
1。透明細胞と緑色細胞の接する面(接合面)に疣(パピラ)または櫛歯状の突起がある
                                       2
1。接合面は平滑                               3
2。枝葉断面で緑色細胞はほぼ正三角形をなし、接合面に櫛歯状の突起がみられる  
                      Sphagnum imbricatum  フナガタミズゴケ
2。枝葉断面で緑色細胞は楕円形または樽形をなし、接合面に疣が見られる
                         Sphagnum papillosum  イボミズゴケ
3。枝葉断面で緑色細胞は楕円形をなし、透明細胞に包まれるように中央にある
                     Sphagnum magellanicum  ムラサキミズゴケ
3。枝葉断面で緑色細胞は三角形ないし遍四角形(?)をなし、角は丸みをおびる
                         Sphagnum palustre  オオミズゴケ

D ユガミミズゴケ節の種への検索表 (Suzuki 1958の論文を参照せよ)
1。枝葉の孔は大きく互いに接し、接合面上に連続して並ぶ;背腹両面ともにその数が多
  いか、あるいは背面に多い                         2
1。枝葉の孔は小さく互いに接しない。接合面上に不連続的に並ぶ;腹面よりも背面に多
  い                                                                        5
2。枝葉の孔は両面に多い                           3
2。枝葉の孔は背面のみに多い                         4
3。植物体の枝振りは通常の形を呈する;茎葉は異型性を示し、小さく、舌三角形状;茎
  皮層細胞外面の孔は不明瞭、月山固有
                   Sphagnum calyummatophyllum  コバノミズゴケ
3。植物体は枝が少ない;茎葉は同型で、大きく、舌卵状;茎皮層細胞の孔は明瞭
                     Sphagnum guwassanese  ガッサンミズゴケ
4。茎皮層細胞は1(ー2)層        Sphagnum subsecundum  ユガミミズゴケ
4。茎皮層細胞は(1ー)2(ー3)層    Sphagnum contortum   ネジレミズゴケ
5。枝葉の背面には縁取りを欠くかあるいはわずかに縁取られた孔があり、偽孔あるいは
  偽孔の名残を欠く;茎葉は普通複雑な多数の区画に分けられている       6
5。枝葉の背面には、明瞭に縁取られた孔があり、常に偽孔あるいはその名残のものが見
  られる;茎葉が区画に分けられていることは稀                7
6。茎葉の異形性は通常顕著ではなく、腹面には小さな孔がある;朔は直径1.3-1.5 mm、
  胞子は小さい(直径20-15 μm)      Sphagnum microporum  コアナミズゴケ
6。茎葉はっきりと異型であり、腹面には大きな孔がある;朔は直径1.87-1.95 mm、胞子
  は大きい(直径30-32 μm)       Sphagnum kushiroense  クシロミズゴケ
7。茎葉には腹面に多数の孔がある;茎皮層細胞は1ー2層
                        Sphagnum subobesum  シタミズゴケ
7。茎葉には腹面に少数の孔がある(通常endporeのみ);茎皮層細胞は2(ー3)層
                         Sphagnum platyphyllum  和名なし

E ホソバミズゴケ節の種への検索表
1。茎葉は舌状または掌状で、先端は糸総状となるが時に鋸歯状となる。      2
1。茎葉は二等辺三角形で、先端は次第に尖り、狭い截形で鋸歯がある       7
2。茎葉の透明細胞には膜がなくすべて貫通する                 3
2。茎葉の1/2以上の透明細胞には膜があって貫通しない              5
3。茎葉は舌状で平行な舷がある                        4
3。茎葉は掌状で1/2以上には舷がなく、糸総状   Sphagnum fimbriatum  ヒメミズゴケ
4。茎の皮層細胞表面には孔が必ず1ー2ヶある。茎は淡緑色。枝葉は枝に密につき、
  先端で強く反り返る           Sphagnum girgensohnii  ホソバミズゴケ
4。茎の皮層細胞表面には孔がほとんどない。茎は黒褐色。枝葉は枝に疎らにつき、
  先端でわずかに反り返る             Sphagnum fuscum  チャミズゴケ
5。茎の皮層細胞表面には孔がない。枝葉腹面中央の透明細胞にも孔がない     6
5。茎の皮層細胞表面には孔がある。枝葉背腹両面の表面中央の透明細胞には孔がある
                        Sphagnum robustum  ミヤマミズゴケ
6。繊細なミズゴケ。茎葉の舷は基部で1/3-1/2に広がる。枝葉は枝に疎らにつき、先端
  わずかに反り返る。枝葉背面先端の透明細胞には偽孔がある
                       Sphagnum rubellum  ウスベニミズゴケ
6。中等大の丈夫なミズゴケ。茎葉の舷は基部で1/2-2/3に広がる。枝葉は枝に覆瓦状に
  つき、螺旋状で5列にならぶ。枝葉背面先端の透明細胞には縁の厚い貫通する孔が
  ある                   Shagnum warnstorfii  ヒナミズゴケ
7。ミズゴケの一部または全体が紫紅色を帯びる。茎葉の舷は基部で1/2以上に広がる。
  枝葉は枝に5列につく                             8
7。ミズゴケは淡黄色か汚褐色、時に黄金色。茎葉の舷は基部で1/3以下。枝葉は枝に
  覆瓦状につき、5列にならばない                      9
8。茎の皮層細胞の膜には孔がある。枝葉は明瞭には5列に並ばない。枝葉腹面中央の
  透明細胞には丸い孔がある          Sphagnum nemoreum  スギバミズゴケ
8。茎の皮層細胞の膜には孔がない。枝葉は明らかに5列に並ぶ。枝葉腹面中央の透明
    細胞には孔がない           phagnum quinquefarium  ゴレツミズゴケ
9。懸崖生で大形のミズゴケ。枝葉腹面先端の透明細胞には孔はない。枝葉の縁は波うつ
           Sphagnum junghuhnianum ssp. pseudomolle  ホソベリミズゴケ
9。中等大の湿原生のミズゴケ。枝葉腹面先端の透明細胞には、1ー2ヶの偽孔がある。
    枝葉の縁は波うたない             Sphagnum subfulvum  ワラミズゴケ

F ハリミズゴケ節の種への検索表
1。茎葉の先端は狭い糸総状または鋸歯がある。舷は基部で2/3以下を占める。茎葉の
    透明細胞には膜があり貫通しない                      2
1。茎葉の先端は広く糸総状で舷は基部でほとんど全部に広がる。茎葉の透明細胞には
    膜がなく貫通する。            Sphagnum lindbergii  フサバミズゴケ
2。茎葉先端は深く切れ込まなく、尖頭、糸総状、または鋸歯がある        3
2。茎葉先端は深く切れ込む           Sphagnum riparium  サケバミズゴケ
3。枝の皮層細胞にあるレトルト細胞の首は短い。茎葉と枝葉の長さが明らかに違う 4
3。枝の皮層細胞にあるレトルト細胞の首は長く抜き出ている。茎葉と枝葉の長さは、
    ほぼ同じ。                   Sphagnum tenellum  ワタミズゴケ
4。茎葉は二等辺三角形、長さ1.5mm以上                     5
4。茎葉は正三角形または舌状、長さ1.2mm以下                  6
5。茎葉の舷は、基部でほとんど広がらず1/4以下。枝葉は背腹両面先端部透明細胞の膜
    に貫通する多数の孔がある          Sphagnum jensenii  シナノミズゴケ
5。茎葉の舷は、基部で1/2以上に広がる。枝葉は背腹両面先端部透明細胞の膜に孔は
    ないが、あっても偽孔がわずか        Sphagnum cuspidatum  ハリミズゴケ
6。茎葉先端の透明細胞膜には、貫通する孔がない。枝葉断面で緑色細胞は、背面のみ
    接し腹面に達しない                            7
6。茎葉先端の透明細胞膜には、1ー2層貫通する孔がある。枝葉断面で緑色細胞は背腹
    両面に接する                               8
7。茎葉は正三角形または二等辺三角形、先端は糸総状または微鋸歯がある。下垂枝葉は
    卵形または卵状披針形で、長さ1.2-1.4mm、幅0.6-0.7mmで先端急に尖る
                       Sphagnum pulchrum  ウツクシミズゴケ
7。茎葉は正三角形または二等辺三角形、先端は尖る。下垂枝葉は披針形、長さ0.9-1.1mm、
    幅0.3-0.4mmで先端は次第に尖る        Sphagnum fallax  サンカクミズゴケ
8。茎葉は正三角形、先端透明細胞にのみ貫通する孔がある。下垂枝葉先端背腹両面透明
    細胞には貫通する大きな孔がある                      9
8。茎葉は舌状、時に二等辺三角形、先端透明細胞に貫通する孔があり、1/3以上の透明
    細胞には糸と、透明細胞先端には膜の薄くなった部分がある。下垂枝葉先端背腹両面
    透明細胞には、縁の厚い偽孔がある
                              Sphagnum acutum var. hakusanense  ハクサンミズゴケ
9。茎葉は正三角形、長さ0.8-1.1mm、幅0.6-0.75mm。下垂枝葉背面先端と中央の透明細胞
    先端には、貫通する大きい孔があるが、3透明細胞の接合点にまで達しない
                      Sphagnum flexuosum  アオモリミズゴケ
9。茎葉は正三角形、長さ0.55-0.75mm、幅0.45-0.8mm。下垂枝葉背面先端と中央の透明
    細胞先端には、3透明細胞の接合点より下までのびる貫通する大きい孔がある
                               Sphagnum angustifolium

G ウロコミズゴケ節の種への検索表
1。茎葉は大きく舌状、先端広く円頭で長さ1.6-2.2mm、幅0.6-1.2mm、舷は基部で3ー4
    層で狭い。縁は中央部以上で糸総状、透明細胞の膜は広く貫通する     
                                             Sphagnum squarrosum  ウロコミズゴケ
1。茎葉は舌状、先端広く円頭で、長さ1.2-1.5mm、幅0.7-0.8mm、舷は基部で2ー3層で
    狭い。縁は中央部以上で糸総状、透明細胞には膜場ある
                                                    Sphagnum teres  ホソミズゴケ

日本に産することが報告された種
                                   (ただし多くの疑問種が含まれている)
1. Sphagnum acutifolium Ehrh. ex Schrad. var. flavescens Warnst.
 和名なし
 図版:
 生態:
 分布:

2. Sphagnum acutum Warnst. var. hakusanense Warnst.
 ハクサンミズゴケ
 図版:松田 (1974) p.39
 生態:「(長野県では)上高地の近くの細池のみに生育し、比較的水位の安定した池とう
    で、開水面に接して淡黄緑色をなす密な群落をつくる中等大のミズゴケである。」
    (松田 1974)
 分布:

3. Sphagnum angustifolium (C.Jens. ex Ross) C.Jens.
  和名なし
 図版:松田 (1974) p.40、Crum & Anderson (1981) p.45 (as S. recurvum var. tenue)
 生態:「沼沢地に生じ、淡緑色又は淡黄緑色をし、ハクサンミズゴケによく似ていて外形だ
    けでは区別できない中等大のミズゴケである。」(松田 1974)
 分布:
  ノート:近縁種との区別点などについてはMatsuda (1981)を参照。
     Crum(1984)は本種をSphagnum recurvum P. Beauv. var. tenue Klingg.の異名とし
     て取り扱っている。

4. Sphagnum aongstroemii Hartr.
  キレハミズゴケ
 図版:Suzuki (1955) p.73、Crum(1984) p.109、Crum & Anderson (1981) p.32
 生態:
 分布:北海道(天塩、上川、十勝)
 ノート:「かなり大型のコケで、外形はオオミズゴケに見るが、茎の皮層細胞に螺旋状の肥
     厚がないことや、枝葉の先が断ち切ったようになり、長短に細かい歯があるので区
     別できる。枝葉の横断面で葉緑細胞が表面に出ないことも特徴である。」(原色図
     鑑 p.32)

5. Sphagnum calymmatophyllum Warnst. & Card. ex Card.
  コバノミズゴケ
 図版:Suzuki (1958) p.245
 生態:月山頂上付近の池の周りにマットを作って生育
 分布:月山固有種

6. Sphagnum compactum DC. ex Lam. & DC.
  キダチミズゴケ
 図版:Suzuki (1965) p.312、原色図鑑 p.32、Crum & Anderson (1981) p.34、Crum (1984)
        p.107, Eddy (1988)
        p.21
 生態:「やや大型で茎は褐色。湿地に密な薄緑色ー褐色、ときに紫がかった群落を
    つくる。Suzuki (1965) p.316参照
        Horikawa & Suzuki (1954, p.331-332)によると、"This species usually grows on
        the moors with short grasses and with rather thin layer of peat which deve-
        loped on the gentle slope in the mountainous region of Honshu."とあり、また
    尾瀬ヶ原では本種が大きな群落をつくって広い面積を覆っていることが記されている。
 分布:北海道(知床、中央西部)、本州(長野県以北日本海側)
    ;分布図(Suzuki 1965, p.314 Fig.4)
  ノート:"From the peculiar appearance of this moss, it is rather easy to determine
          it with certainity."  (Horikawa & Suzuki 1954 p.331)
     "Remarkable characteristics of this species, especially observed in branch-
     leaves, are precisely summarized by Andrews (1913b) as follows; "Shape and
          situation of chlorophyll cells in section, three pores arranged in adjacent
          corners of hyaline cells on the inner surface and marked pseudopores along
          the commissures on the outer surface."  Both thet triple pores on the inner
          surface and the pseudopores on the outer surface are characteristic perfor-
          ations for this species."  (Suzuki 1965 p.303)

7. Sphagnum compactum var. imbricatum Warnst.
  カワラミズゴケ
 図版:
 生態:
 分布:
ノート:"As the result of the investigation the wirther came to a conclusion that
      there is no essential difference sufficient to separate this species into
         any kinds of lower ranks, but a kind of geographic inclination is seen in
         occurrence of perforation types." (Suzuki 1965 p.304)

8. Sphagnum connectans Warnst. & Card.
  イトナシミズゴケ
 図版:
 生態:
 分布:

9. Sphagnum contortum Schultz
 ネジレミズゴケ
 図版:Suzuki (1958) p.252、松田 (1974) p.37, 42
 生態:霧ヶ峯の標高1640mから1850mにかけての湿原、特に八島ヶ原湿原に多い。
   「霧ヶ峯八島ヶ原では池とうやシュレンケに生育し、茶褐色から淡褐色をした糸状の
   ミズゴケで霧が峯特産。」(松田 1974)
 分布:日本では長野県霧ヶ峯特産(八島ヶ原、男女倉湿原、車山湿原)
 ノート:S. subsecundumのシノニムとされている場合もある(Iwatuski 1991参照)

10. Sphagnum cuspidatum Ehrh. ex Hoffm. var. cuspidatum
  ハリミズゴケ
 図版:原色 p.34、Crum (1984) p.115、松田 (1974) p.39 & p.42、Crum & Anderson (1981)
        p.40、Eddy (1988) p.15
 生態:「中間湿原や高層湿原の池とうまたは地下水位の高いところに生育し、繊細なものか
        ら大形のものまである水中性のミズゴケで、緑色から汚褐色、時に帯黄白色、生育環
        境によって色、大きさ等違いがみられるミズゴケである。」(松田 1974)
        "This species is usually submerged or immerged and occurs usually not in deep
         but rather shallow ponds on the raised moors." (Horikawa & Suzkuki 1954,
         p.344)
 分布:

11. Sphagnum cuspidatum Ehrh. ex Hoffm. var. serrulatum (Schlieph.)Schlieph.
  ノコギリミズゴケ
 図版:Crum (1984) p.116、Crum & Anderson (1981) p.40
 生態:
 分布:

12. Sphagnum cuspidatum Ehrh. ex Hoffm. var. submersum Schimp.
  シワミズゴケ
 図版:
 生態:
 分布:

13. Sphagnum dicladum Warnst.
  ヤマミズゴケ
 図版:
 生態:
 分布:

??. Sphagnum dusenii (C.Jens.) Russ & Warnst.
  ノート:Sphagnum majusをみよ

14. Sphagnum drepanocladum Warnst. var. latilimbatum Warnst.
  ヘリトリミズゴケ
 図版:
 生態:
 分布:

15. Sphagnum fallax (Klinngr.)Klinngr.
      = Sphagnum apiculatum (refer Iwatsuki 1991)
  サンカクミズゴケ
  本種については、Sphagnum recurvumの項も参照せよ。
 図版:Crum (1984) pp.122-123 (as S. recurvum var. bravifolium)、松田(1974) p.40 (as
        Sphagnum apiculatum)
 生態:「高層湿原の池とう周辺の水のつくところに生育し、淡黄色から黄緑色をした中等大の
    美しいミズゴケである。」(松田 1974)
 分布:
 ノート:Crum (1984)は本種をSphagnum recurvum P.Beauv. var. brevifolium (Lindb. ex
          Braith.) Warnst.の異名としている。基本変種var. recurvumとの違いについては
            Stem leaves broad, lingulate to somewhat oglong-triangular, moderately to
              distinctly erose ............................ ........... var. recurvum
            Stem leaves narrow, more or less triangular, not or slightly erose at the
              apex ................................................. var. brefifolium
                                                 
16. Sphagnum fimbriatum Wils. ex J. Hook.
  ヒメミズゴケ
 図版:原色 p.33、松田(1974) p.37、p.41、Crum (1984) p.160、Crum & Anderson (1981)
        p.65
 生態:「低山帯から亜高山帯までの中間湿原を代表する主なミズゴケで、淡黄緑色から淡緑
    色の蘚座をつくる大形のミズゴケである。茎は弾力に富み折れにくい。」(松田 1974)
 分布:

17. Sphagnum fimbriatum var. compactum Warnst.
  和名なし
  図版:
 生態:
 分布:

18. Sphagnum fimbriatum var. latifolium Warnst.
  ヒロハノヒメミズゴケ
  図版:
 生態:
 分布:

19. Sphagnum fimbriatum var. norikusae Warnst.
  ノリクラミズゴケ
  図版:
 生態:
 分布:

20. Sphagnum flexuosum Dozy & Molk.
      = Sphagnum amblyphyllum
  アオモリミズゴケ
  図版:松田 (1974) p.40 & p.42 (as Sphagnum amblyphyllum)
 生態:「沼沢地や高層湿原の池とう周辺の地下水位が高い、常に水がつくところに生じ、淡
    緑色又は黄緑色をなし、1種のみで大きい群落をつくる中等大の沼沢生のミズゴケで
    ある。」(松田 1974)
 分布:
 ノート:Crum (1984)は本種をサンカクミズゴケS. recurvum var. recurvumの異名として扱
          っている。

21. Sphagnum fuscum (Schimp.) Klinggr.
  チャミズゴケ
  図版:Crum (1984) p.150, 松田(1974) p.39、Crum & Anderson (1981) p.60
 生態:「高層湿原のブルト上に生育する代表的な中等大のミズゴケで全体が茶褐色(時にう
    ぐいす色の場合もあるがどこかに茶褐色の部分が残る)で密な蘚座をつくる。茎は黒
    褐色で弾力がなく折れやすい。」(松田 1974)
 分布:

22. Sphagnum girgensohnii Russ
  ホソバミズゴケ
  図版:原色図鑑 p.33、Crum(1984) p.159、松田(1974) p.37 & p.41、Crum & Anderson
       (1981) p.65
 生態:本種は湿原ではなく、林床に群生する。林床に生育するのを見かけるミズゴケのほと
        んどは本種である。
 分布:

23. Sphagnum girgensohnii var. squarrosulum Russ.
 チャボホソバミズゴケ
 図版:
 生態:
 分布:

24. Sphagnum girgensohnii var. strictum (Lindb.) Russ.
 和名なし
  図版:
 生態:
 分布:

25. Sphagnum guwassanense Warnst. ssp. guwassanense
 ガッサンミズゴケ
  図版:Suzuki (1954) p.291
 生態:
 分布:日本固有。青森県(八甲田山)、秋田県(八幡平)、山形県(鳥海山、月山)、
        富山県(立山)、長野県(八島ヶ原)
 ノート:各亜種については下に示したSuzuki (1954)による検索表と共に、各分類群の元
     記した小野(1983)の解釈も参照せよ。
          A1. On almost all of the inner surface of the leaf, the pseudopores
                are arranged along the commissures in dense rows; on the outer
                surface the pores located on the median line of the hyaline-cells
                commonly do not occur, or scatter at the indefinite part of the
                leaf .............................................. subsp. takedae
        A2. On the inner surface of the leaf, the pseudopres or true pores make
                dense rows along the commissures at the apical part only; on the
                outer surface the pores located on the median line of the hyaline-
                cells are numerous .............................................. B
            B1. On the outer surface of the leaf, the small pores located on the
                median line of the hyaline-cells do not occur or are restricted to
                the apcial part only ......................... subsp. guwassanense
            B2. On the outer surface of the leaf, the small pores located on the
                median line of the hyaline-cells occur on the upper two thirds or
                almost all of the leaf surface ............... subsp. triseriporum

26. Sphagnum guwassanense ssp. takedae (Okam.) H.Suzuki
 イトミズゴケ
  図版:Suzuki (1954) p.289、松田 (1974) p.37
 生態:湿原の池やシュレンケ
 分布:日本固有(長野県霧が峰八島ヶ原の特産)
 ノート:「茎葉の腹面の透明細胞と緑色細胞との接合面にそって偽孔が並ぶこと、透明細胞
          背面中央部に孔がないか、あったとしても散在することで他の亜種から区別される。
          しかしこれらの形質は不安定であり、分類上重視することはできない」(小野 1983,
           p.120)

27. Sphagnum guwassanense ssp. triseriporum H.Suzuki
  ミツアナミズゴケ
  図版:Suzuki (1954) p.293
 生態:
 分布:青森県(八甲田山、八幡平)、富山県(立山)
 ノート:「茎葉状部の背腹両面の透明細胞において孔および偽孔が接合面に沿って並ぶこと、
     透明細胞背面の中央に小さく丸い孔が基部から上部まで2/3以上の透明細胞に列
      となって存在することで区別される。(中略)したがって、これらを亜種または変
           種という分類ランクで区別することは当を得ていないと考えられる。」(小野
           1983, p.120)

28. Sphagnum imbricatum Hornsch. ex Russ.
  フナガタミズゴケ(クシノハミズゴケ)
  図版:松田 (1974) p.35、Crum (1984) p.105、Crum & Anderson (1981) p.30
 生態:
 分布:北海道、本州(長野より北);分布図 Suzuki (1956) p.168

29. Sphagnum imbricatum var. affine (Ren. & Card.) Warnst.
  ハリマミズゴケ
  図版:
 生態:
 分布:

30. Sphagnum incertum Warnst.
  ミネミズゴケ
  図版:
 生態:
 分布:

31. Sphagnum jensenii Lindb.
  シナノミズゴケ
  図版:松田 (1974) p.39 & p.42、Crum (1984) p.118 (as Sphagnum annulatum var.
        porosum)
 生態:「汚褐色から紫褐色をした水中性のミズゴケ。」(松田 1974)
 分布:北海道、本州(長野県:霧ヶ峯八島ヶ原、車山湿原、他は不明))
 ノート:Crum (1984)は本種をSphagnum annulatum Lindb. var. porosum (Schlieph. &
          Warnst.) Maas. & Isovitta ex Maas.の異名として扱っている。

32. Sphagnum junghuhnianum Dozy & Molk. ssp. junghuhnianum
  ホソベリミズゴケ
  図版:
 生態:
 分布:

33. Sphagnum junghuhnianum ssp. pseudomolle (Warnst.)Suzuki
  コバノホソベリミズゴケ
  図版:原色図鑑 p.34、Suzuki (1956) p.196
 生態:「(長野県では)木曽谷南部の水のしたたり落ちる岩上に生育し、黄褐色または黄金
    色をした大形のミズゴケである。」(松田 1974)
 分布:本州(新潟県と岐阜・愛知県より西の地域)、四国(全県)、九州(宮崎);
    分布図 Suzuki (1956) p.197
 ノート:Sphagnum junghuhnianum var. pseduomolle (Warnst.)Warnst.と同じものである。
          基本変種との違いについては、Crum(1984: p.77)を見よ。

34. Sphagnum kushiroense H.Suzuki
  クシロミズゴケ
  図版:Suzuki (1958) p.259
 生態:
 分布:北海道;釧路、十勝、渡島支庁
  ノート:"This species is closely allied to S. microporum and it is difficult to
          distinguish from each other in sterile plants, as they chiefly differ in
          sexual organs or sporophytes.  The present species has larger sphaerical
          capsule and larger spores than S. microporum.  Anisophyllous stem-leaves
          in this species serve also to distinguish it from S. microporum in which
          they are rather rare.  At present, the species is restricted to the south
          coastal regions of Hokkaido." (Suzuki 1958, p.261)

35. Sphagnum lindbergii Schimp. ex Lindb.
  フサバミズゴケ
  図版:松田 (1974) p.40、Crum (1984) p.129、Crum & Anderson (1981) p.48
 生態:「(長野県では)志賀高原芳の平の高層湿原に生育する淡褐色から黄金色をした大形
    のミズゴケである。」(松田 1974)
 分布:

36. Sphagnum majus (Russ.)C.Jens
  図版:Suzuki (1955) p.81 (as Sphagnum dusenii C.Jens)、Crum (1984) p.117
  生態:
 分布:北海道
 ノート:Suzuki (1955)ではS. dusenii、Iwatsuki (1991)ではS. majus var. dusenii
          とされている。
37. Sphagnum magellanicum Brid.
  ムラサキミズゴケ
  図版:原色図鑑 p.30 & p.32、Crum (1984) p.98、松田 (1974) p.35 & p.41, Crum &
        Anderson (1981) p.25
 生態:
 分布:北海道、本州(長野県より北);分布図 Suzuki (1956) p.169
  ノート:植物体が赤紫色であることと、枝葉の尖端が僧帽状に内側にくぼんでいること
     に注目すると、比較的同定しやすい。

38. Sphagnum microporum Warnst. ex Card.
  コアナミズゴケ(コマミズゴケ、センダイミズゴケ、カズサミズゴケ)
  図版:Suzuki (1958) p.255、松田 (1974) p.36 & p.37
 生態:「低山帯の湿地、低層湿原の流水辺から溜水中に主に生育し、時に高層湿原に生育
    する。濃緑色から淡緑色をした中等大から大形のミズゴケ。」(松田 1974)
 分布:中国、北朝鮮、日本(松田(1974)では日本固有とある)。青森県から大分県まで
        各地。

39. Sphagnum nemoreum Scop.
   = Sphagnum capillaceum (Weiss) Schrank
  スギバミズゴケ
  図版:原色図鑑 p.33、松田 (1974) p.38 & P.41、Crum (1984) p.151 (as S. capillifoilum)
 生態:「高層湿原の地下水位の低くなったブルト上に淡紅色から紫紅色の密な蘚座をつくる
        美しいミズゴケ。」(松田 1974)
 分布:
 ノート:Crum (1984)は本種をSphagnum capillifolium (Ehrh.) Hedw. var. capillifoliumの
          異名としている。

40. Sphagnum obtusum Warnst.
 和名なし
  図版:Zuzuki (1955) p.77、Crum (1984) p.126、Crum & Anderson (1981)p.44
 生態:
 分布:北海道(釧路、美唄)
  ノート:Crum (1984)は本種について次のようなコメントを与えている:"Much resembling
          S. recurvum, this species has rather large stem leaves broadly rounded and
          somewhat eroded at the apex, and the pore characteristics of the branch
          leaves are quite differnet.  Window-like apical pores are not seen in S.
          obtusum, at least in upper proti9ons of the leaf.  On the outer surface
          near the leaf tips the hyalocysts have only a few small end or conmer pores
          or sometimes quite numerous small, non-ringed, round pores or membrane
          thinnings in addition to a fair number of ringd pseudopores and fibril
          connections."

41. Sphagnum pallens Warnst. & Card.
  シロミズゴケ
  図版:
 生態:
 分布:

42. Sphagnum palustre L.
  オオミズゴケ
  図版:Crum & Anderson (1981) p.27, 原色図鑑 pl.1、Crum(1984) p.101
 生態:
 分布:日本全国;分布図 Suzuki (1956) p.171
 ノート:本州低地の湿原に大群落を形成することが多い。
 
43. Sphagnum palustre var. pallescens (Warnst.)Sak.
  ウスアオミズゴケ
  図版:
 生態:
 分布:

44. Sphagnum palstre var. virescens (Russ.) Sak.
  アオオオミズゴケ
  図版:
 生態:
 分布:

45. Sphagnum papillosum Lindb.
     = Sphagnum hakkodense Warnst. & Card.
  イボミズゴケ
 図版:Crum (1984)p.104、Crum & Anderson (1981) p.28
 生態:
 分布:北海道、本州(滋賀県より東);分布図 Suzuki (1956) p.168
 ノート:"Sphagnum papillosum can often be recognized by its growth in brown, compact
           carpets.  The green cells of the branch leaves, as viewed in section, are
           more or less trapezoidal to nearly triangular, and the hyaline cells are
           densely and often conspicuously papillose on their side walls.  However, in
           the so-called var. laeve and var. sublaeve, the papillae are faint or lack-
           ing, and then confusion with S. palustre or even S. centrale is possible."
           (Crum 1984 p.15)

46. Sphagnum papillosum var. confertum Lindb.
  フトミズゴケ
 図版:
 生態:
 分布:

47. Sphagnum papillosum var. riparium Grav.
  和名なし
 図版:
 生態:
 分布:

48. Sphagnum platyphyllum (Lindb. ex Braithw.) Sull. ex Warnst.
  ヒロハミズゴケ (Suzuki 1958)
 図版:Suzuki (1955) p.85
 生態:
 分布:北海道(石狩支庁岩見沢)

49. Sphagnum pulchrum (Lindb. ex Braithw.) Warnst.
  ウツクシミズゴケ
 図版:Horikawa & Suzuki (1954) p.346、松田(1974) p.39、Crum (1984) p.121、
        Crum & Anderson (1981) p.43
 生態:「高層湿原の池とう周辺の水のつくところに生育し、汚緑色から緑色をした丈夫で大
    きいミズゴケである。」(松田 1974)
 分布:
  ノート:本州では稀にしか見られないが、尾瀬ヶ原は例外であり、非常に旺盛に生育してい
     ることが報告されている (Horikawa & Suzuki 1954 p.348)。

50. Sphagnum quinquefarium (Lindb.) Warnst.
 ゴレツミズゴケ
  図版:松田(1974) p.34、Crum & Anderson (1981) p.64、Crum (1984) p.154 & p.157
 生態:「亜高山帯針葉樹林下に主に生育する森林性のミズゴケであるが、時に針葉樹に覆わ
    れた小さな湿原に生育する。淡緑色をなし一部に淡紅紫色を帯びた美しいミズゴケで
    ある。」(松田 1974)
 分布:

51. Sphagnum recurvum P.Beauv.
     = Sphagnum fallax (Klinggr.) Klinggr. (refer Crum 1984)
  サンカクミズゴケ
  図版:Crum & Anderson (1981) p.44
 生態:
 分布:
  ノート:本種についてはSpahgnum fallaxの項を参照せよ。
          分類の困難なグループである。詳しくはCrum & Anderson (1981, p.44-47)を参照。

52. Sphagnum riparium Aongstr. var. riparium
  サケバミズゴケ
 図版:Horikawa & Suzuki (1954) p.342、松田 (1974) p.40、Crum (1984) p.128、Crum &
        Anderson (1981)p.48
  生態:「(長野県では)志賀高原の地下水位が高く、常に水がつくようなところに生育す
    る濃緑色の大形のミズゴケ。乾燥すると金属光沢を帯びる。茎は濃緑色で折れやす
    い。」(松田 1974)
 分布:北海道、本州(志賀高原、尾瀬ヶ原、尾瀬沼)
 ノート:"From its characteristic metalic lustre and its fiugre which resembles
          Sphagnum squarrosum in the field as well as its deeply cleft stem-leaves,
          it can be easily distinguished from other species found in the Oze
          district." (Horikawa & Suzuki 1954 p.344)
 
53. Sphagnum riparium var. coryphaceum Russ.
  セイタカミズゴケ
  図版:
 生態:
 分布:

54. Sphagnum rubellum Wils.
 ウスベニミズゴケ
 図版:Horikawa & Suzuki (1954) p.338、松田 (1974) p.38
  生態:「高層湿原のうちでも特に泥炭が厚く堆積する湿原に生育し、紫紅色から濃い紫紅色
    をした繊細なミズゴケで、大きい群落をつくらない。」(松田 1974)
 分布:

55. Sphagnum russowii Warnst.
   =Sphagnum robustum (Russ.) Roll
  ミヤマミズゴケ
 図版:松田 (1974) p.38 & p.41 (as S. robustum)、Crum (1984) p.156 & p.158
 生態:「亜高山帯の高層湿原の地下水位の低くなったところに生育し、紫紅色から淡紅色(
    淡緑色の場合もあるが枝の一部に紅色が残る)をした中等大の美しいミズゴケで、大
    きな群落はあまりつくらない。」(松田 1974)

56. Sphagnum septatum Warnst.
  フシミズゴケ
 図版:
 生態:
 分布:

57. Sphagnum squarrosum Crome var. squarrosum
  ウロコミズゴケ
 図版:Suzuki (1967) p.254、原色図鑑 Pl.1、松田 (1974) p.36,p.41、Crum (1984) p.110、
        Crum & Anderson (1981) p.36
 生態:主として亜高山帯の湿原周辺の森林中に生育する。黄緑色から濃緑色をした大形のミ
        ズゴケ。
 分布:北海道、本州(岐阜・石川県より北、及び福井、兵庫、奈良、島根)、四国(愛媛)
    分布図 Suzuki (1967) p.257
 ノート:枝葉が背方に強く反り返る特徴を持ち、同定は容易である。

58. Sphagnum squarrosum var. immersum Beck. ex Warnst.
  オオウロコミズゴケ
 図版:
 生態:
 分布:

59. Sphagnum subacutifolium Schimp.
  ズギバミズゴケモドキ
 図版:
 生態:
 分布:

60. Sphagnum subfulvum Sjoers.
  ワラミズゴケ
 図版:松田 (1974) p.38 & p.41, Crum (1984) p.147、Crum & Anderson (1981) p.59
  生態:「中間湿原の地下水位の低いところに生育し、淡褐色から淡緑色をした中等大のミズ
    ゴケである。茎は茶褐色から褐色。」(松田 1974)
 分布:

61. Sphagnum subnitens Russ. & Warnst.
   = Sphagnum plumulosum Roell. nom. inval.
  和名不明
 図版:Crum (1984) p.147-148、Crum & Anderson (1981) p.59
 生態:
 分布:
 ノート:Iwatsuki (1991)には正名として採用されているが、Crum (1984)では上記のような
          扱いがされている。なおIwatsuki (1991)はS.plumulosumの和名として「ワタミズ
          ゴケ」を挙げているが、これはSphagnum subfulvum Sjoersのこと(松田1974)。

62. Sphagnum subobesum Warnst.
  シタミズゴケ(ウゼンミズゴケ、カズサミズゴケ)
  図版:Suzuki (1958) p.263、松田 (1974) p.37 & p.42、Crum (1984) p.134 (as S. sub-
        secundum var. junsaiense)
 生態:「低山帯の湿原、低層湿原の流水辺から留水中に生育し、特に高層湿原に生育する。
        黄褐色から白緑色をした中等大から大形のミズゴケ。」(松田 1974)
 分布:日本固有。北海道(天塩、釧路、十勝、石狩、胆振、渡島)、本州(青森県から
        長野県)。
  ノート:Suzuki (1958)、松田(1974)、Iwatsuki (1991)では独立種として扱われているが、
          Crum(1984)では本種S. subobesumとS. uzenense Warnst.はともにSphagnum subsec-
          undum Nees ex Sturm var. junsaiense (Warnst.) Crumの異名として扱われている。
         このことに関連して彼は以下のように記している:"Suzuki (1958) presented some
          obsevations on habitat responses in S. subobesum, which is included here in
          the synonymy.  Andrus (1979a) differentiated S. subobesum by a series of
          variables -- stem leaves about 1 mm long, more or less isophyllous, spread-
          ing a righty angles, branches in fascicles of two spreading and one pendent,
     and branch leaves about 1.5 mm long, with pores on the outer surface in rows
          toward the leaf tip but fewer toward the base where they are restricted to
          ends and corners.  He characterized S. subsecundum as having stem leaves
          about 0.8 mm long, anisophyllous, and appressed, branches in fascicles of
          two spreading and two pendent, and branch leaves about 1.2 mm long with
          pores in continuous rows throughout.  I have not taken the considerable
          trouble to confirm and evaluate these differences.  Variation in the
          subsecundum complex is such that I am reluctant to accept average
          quantitative values or tendencies as usable taxonomic distinctions."
         (Crum 1984, p.62)

63. Sphagnum subsecundum Nees in Sturn (どの変種に相当するのかは不明)
 ユガミミズゴケ
  図版:Suzuki (1958) p.249、松田 (1974) p.37 & p.42、Crum (1984) p.132 & p.133、
        Crum & Anderson (1981) p.51、Eddy (1988) p.10
 生態:「亜高山帯から高山帯の海抜2.000m以上の高山高層湿原の窪地、池、池周辺の地下水
        位の高いところに生育し、黄褐色から汚褐色をした中等大のミズゴケ。」
    (松田 1974)
 分布:
 ノート:Sphagnum subobesumの項を参照のこと。

64. Sphagnum tenellum Person var. tenellum
 ワタミズゴケ
 図版:松田 (1974) p.40 & p.42、Crum (1984) p.119、Crum & Anderson (1981) p.43
  生態:「多雪地帯の山岳にある高層湿原の池周辺のやや地下水位の高いところにミヤマイ
        ヌノハナヒゲと群落をつくる淡緑色から黄緑色の繊細なミズゴケ。」(松田 1974)
 分布:

65. Sphagnum tenellum var. rufescens Grav. ex C. Jens.
  和名なし
 図版:
 生態:
 分布

66. Sphagnum teres (Schimp.) Anongstr. ex C.Hartm.
  ホソミズゴケ
  図版:Suzuki (1967) p.260、松田 (1974) p.36、Crum (1984) p.111、Crum Anderson
    (1981) p.37
 生態:高山帯にある湿原の流水中に主に生育し、黄緑色から淡褐色をした中程度のミズゴケ。
 分布:北海道、本州(長野県以北);分布図 Suzuki (1967) p.263
  ノート:Crum (1984; p.27-28)にはつぎのような記述が見られる。
       "Sphagnum teres grows in especially wet, eutrophic, pioneering situations, in
         small tufts or sometimes in loose carpets.  The plants are yellowish or
         brownish, with a large terminal bud and branch leaves that are erect when
         moist but more or less spreading at the tips when dry. (Spreading tips can be
         demonstrated in the field by pinching excess water from branches of the
         capitulum.)  Occasional dried specimens are difficult to distinguish from
         S. squarrosum.  However, the branch leaves are much smaller (1-1.3 mm long
         as contrasted with 1.9-2.6 mm), and they are not abruptly narrowed from a
         sheathing base.  In the field one is seldom -- if ever -- confused, as S.
         teres is small and yellowish, with leaves erect when moist, and it is not a
         woodland species but occus in open sedge mats, alder thickets, or other
         unstable, minerotrophic habitats.  Both species are characterized in a basic
         way, defining the section Squarrosa, by lingulate stem leaves with short,
         broad, efibrillose, hyaline cells extensively resorbed on the outer surface
         and at the apex of the leaf on both surfaces, thus, resulting in sieve-like
         perforation and often some degree of fringing."

67. Sphagnum tosaense Warnst.
  トサミズゴケ
  図版:
 生態:
 分布:四国

68. Sphagnum warnstorfii Russ
     = Sphagnum warnstorfianum Rietz
  ヒナミズゴケ
  図版:Horikawa & Suzuki (1954) p.336、松田 (1974) p.38、Crum (1984) p.149 & p.154、
    Crum & Anderson (1981) p.60
 生態:「紫紅色を帯びた美しいミズゴケ。淡緑色または黄緑色をシタ場合にも、どこか一部
    に紫紅色の部分が残る。」(松田 1974)
 分布:日本では霧が峯車山湿原と八島ヶ原湿原、及び尾瀬ヶ原にのみ分布。

                                       文献
Crum, H. 1984.  North American Flora ser.II, part 11, Sphagnopsida, Sphagnaceae. 
     The New York Botancial Garden, Bronx.
Crum, H.  1993.  Progress toward understanding Sphagnum section Sphagnum in Brazil. 
     Advanced in Bryology 5:9-29.
Eddy, A.  1977.  Sphagnales of tropical Asia.  Bull. Brit. Mus. Bot. 5:359-446.
Eddy, A.  1988.  A Handbook of Malesian Mosses Vol.1  British Mus. (Nat. Hist.)
Horikawa, Y. & H. Suzuki.  1954.  Sphagnum species in the Oze district.  Jpn. J. Bot.
     14:325-348.
Matsuda, Y. 1981. Comparison of morphological characters among Sphagnum apiculatum,
     S. amblyphyllum and S. angustifolium.  Hikobia, Supplement 1:403-412.
松田行雄 1974  長野県産ミズゴケ類(Sphagnales)の分布ならびに分類 II。 長野県植物
     研究会雑誌 7:16-42
中島徳一郎.  近畿地方のミズゴケ類 しだとこけ 5:11-15.
Nyholm, E.  ????.  Illustrated moss flora of Fennoscandia, II. Musci fasc. 6.
Ono, S. 1983.  Studies on Sphagnum guwassanese Warnst. and S. calymmatophyllum
     Warnst. & Card.  Bull. Natl. Sci. Mus., Tokyo, B, 9:109-123.
小野庄士 1979  吾妻山のミズゴケ類 I 文献不明
小野庄士  19??  日本産ミズゴケ分類のために 米沢高等学校紀要?? (別刷りに記載なし)
小野庄士 19??  吾妻山のミズゴケ類 II 米沢高等学校紀要?? (別刷りに記載なし)
小野庄士 1981  クシノハミズゴケの透明細胞の構造 植物研究雑誌 56:188-192.
小野庄士 1983  ガッサンミズゴケ及びコバノミズゴケの研究 Bull. Nation. Sci. Mus.
     Ser. B, 9 (3):107-123。
Suzuki, H.  1954.  A revision of Sphagnum guwassanense Warnst.  J. Sci. Hiroshima 
     Univ. Ser. B, Div. 2, 6:281-295.
Suzuki, H.  1956.  A list of Sphagnum species from Hokkaido with descriptions of
     the new additions to Japanese flora.  J. Sci. Hiroshima Univ. Ser. B, Div. 2,
     7: 63-89.      
Suzuki, H. 1956.  Studies on the Palustria group of the Sphagnum of Japan.  J. Sci.
     Hiroshima Univ. Ser. B, Div. 2, 7:153-172.
Suzuki, H. 1956.  Variations in Sphagnum junghuhnianum var. pseudomolle Warnst.
     and the status of S. kiinese Warnst. Jpn. J. Bot. 16:186-198.
Suzuki, H.  1958.  Taxonomical studies on the subsecund group of the genus Sphagnum
     in Japan, with special reference to variation and geographical distribution. 
     Jpn. J. Bot. 16:227-268.
Suzuki, H.  1965.  Observations on Sphagnum compactum DC. in Japan.  Hikobia 4:303-317.
Suzuki, H.  1967.  Notes on the section squarrosa of Sphagnum in Japan.  J. Sci.
     Hiroshima Univ. Ser. B, Div. 2, 11:247-264.

小野(19??)による検索表:参考として全文を引用する。
『現在まで日本各地で採集され報告されたミズゴケ類の数は、47種30変種(岩月と野口、1973)にのぼるが、その実体は今までに明らかでない。そこで筆者はここ数年ミズゴケの研究を行っているが、その一歩として現在までに報告された種の概要を明らかにすべく、検索表を作成したので報告する。尚、この検索表を作成するに当たり、多くの文献及び著者自身の観察を基本としたが、至る所未完成であることをことわっておきたい。
 ミズゴケ類は一属(Sphagnum)からなり、コケ植物の中でも大属に入り、いくつかの節に分かれている。そのわけ肩は、研究者によって異なり、その詳細については割愛するが、ここでは7つの節に分けてまとめてみたい。すなわち、Sect. Palustre (=Sect. Sphagnum), Sect. Truncata, Sect. Rigida, Sect. Acutifolia, Sect. Cuspidata, Sect. Squarrosa, Sect. Subsecundaである。
  I.節の検索表
 前述したように、ミズゴケの分類に際し、節の考え方で研究者ごとの差異があるが、ここではNyholm(1954-1969)の説を採用した。
1.茎や枝の透明細胞からなる皮層細胞には、よく発達した肥厚糸(fibril)がある。枝葉は
    広く、その先端は丸くかつ多少内巻きとなる。へりは全てくしの歯状にぎざぎざとなる。
                        A.オオミズゴケ節 Sect. Palustre
1.茎や枝の透明細胞からなる皮層細胞には肥厚糸がみられない。枝葉は卵形あるいは披針
    形で、短いかあるいは長く、広いかあるいは先細で、縁はほとんどたいらである。 2
2.枝葉はかなり広く四角形の先端で、枝葉断面の緑色細胞は小さく、卵形か長円型でつね
    に透明細胞で両面を包まれている。                      3
2.枝葉の先端は狭く、尖頭である。枝葉断面の緑色細胞は三角形、方形で背腹面のどちら
    か一面あるいは両面に面している。                      4
3.枝葉は広く卵形でだいたい茎葉と同じ長さである。枝には二種の透明細胞すなわち大き
    なレトルト細胞と孔のない小さな細胞からなる  B.キレハミズゴケ節 Sect.Turncata
3.枝葉は長く卵形、茎葉よりも非常に長い。枝の透明細胞は全て同じでほとんど孔をもつ
                            C.キダチミズゴケ節 Sect. Rigida
4.枝葉の背面上の透明細胞には2・3のあるいは非常にたくさんの大きなあるいは小さな
    孔がある。枝葉断面で緑色細胞は三角形あるいは四角形で、背面あるいは腹面の一方に
    接する。下垂枝は開出枝よりも非常に長く下垂枝と開出枝との区別は明らかである。5
4.枝葉の背面上の透明細胞にはつねに多くの非常に小さい縁のある孔か偽孔細胞に沿って
    2列に存在する。枝葉断面で緑色細胞は樽形あるいは四角形で背腹両面に達する。開出
    枝と下垂枝はほぼ同じ長さである。         D.ユガミミズゴケ節 Sect. Subsecunda
5.枝葉断面で葉の向軸面(葉の腹側)に緑色細胞の底面が接している。緑、赤、茶、光沢
    のある植物体。                           E.スギバミズゴケ節 Sect. Acutifolia
5.枝葉断面で葉の背軸面(葉の背側)に緑色細胞の底面が接している。       6
6.茎葉の舷はせまく長い細胞6ー7列からなり、光沢のある植物体。
                              F.ハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata
6.茎葉の舷は基部のみでせまく、透明細胞には糸がない。光沢のない植物体。
                            G.ウロコミズゴケ節 Sect. Squarrosa

II.種の検索表
A.オオミズゴケ節
 この節はSuzuki(1956)により整理され、現在下述の4種が認められている。
1.緑色細胞と接する透明細胞内部の細胞壁上にパピラあるいは突起糸がある。特にこれ
    は、枝葉の基部で顕著である。                       2
1.透明細胞内の細胞壁上は平滑である。                    3
2.枝葉の断面で緑色細胞はほぼ三角形であり、また緑色細胞に接する透明細胞内には突
    起糸がある。                 クシノハミズゴケ S. imbricatum
2.枝葉の断面で緑色細胞は楕円形であり、また、緑色細胞に接する透明細胞内にはパピラ
   がある。                            イボミズゴケ S. papillosum
3.枝葉の断面で緑色細胞は丸みを帯びた三角形で、いつも背腹両面に達している
                                オオミズゴケ S. palustre
3.枝葉の断面で緑色細胞は透明細胞に両面から囲まれ中央にある。
                        ムラサキミズゴケ S. magellanicum

B.キレハミズゴケ節
 この節には、キレハミズゴケ S. aongstroemii一種のみが含まれる。

C.キダチミズゴケ節
 この節には、キダチミズゴケ S. compactum一種のみが含まれる。

D.ユガミミズゴケ節
 この節はSuzuki(1958)によって整理され、8種からなるとされたが、その後の研究から6種と考えた方がよい。ただし、S. guwassanenseとその亜種、S. okamuraeの変種の取り扱いについて再検討が必要であるが、ここでは削除して考えた。
1.枝葉の孔は互いに接するほど大きく、かつ孔は透明細胞と緑色細胞との接合面に規則
    正しく並んでいる。孔の数は背腹両面あるは背面のみに多い。         2
1.枝葉の孔は小さくかつ接合面に対して不連続に並んでいる。孔の数は腹面よりも背面
    に非常に多い。                              4
2.枝葉の孔は背腹両面に多く存在する。           ユガミミズゴケ S. subsecundum
2.枝葉の孔は背腹両面に多く存在する。                    3
3.枝には開出枝と下垂枝がある。茎葉は同葉性を示さず小さく三角形の舌状である。茎
    の皮層細胞における孔は明瞭でない。       コバノミズゴケ S. calymmatophyllum
3.植物体のつくりは単純である。茎葉は同葉性を示し、大きく丸い舌状である。茎の表
    皮細胞上の孔は明瞭である。           ガッサンミズゴケ S. guwassanense
4.枝葉の背面には強く縁取られた広い孔があるし、偽孔もある。茎葉の腹面にはほとん
    ど孔は見られないし、透明細胞の複雑な分裂も稀である。また茎の透明細胞は2
    (ー3)層である。              ヒロハミズゴケ S. platyphyllum
4.枝葉の背面には縁のない、あるは弱く縁のある孔があり、偽孔はない。茎葉の透明細
    胞は複雑な分裂をしているものが常に多く存在する。             5
5.茎葉は常に半同葉性を示し、腹面には小さな孔がある。茎の透明細胞は1ー2層であ
    る。朔の直径は1.3-1.5mm、胞子は小さく直径20-25μmである。 
                                                      シタミズゴケ S. subobesum
5.茎葉は常に同葉性を示さず、腹面の透明細胞には大きな孔がある。朔の直径は1。9mm、
    胞子は大きく直径30ー38μmである。          クシロミズゴケ S. kushiroense

E.スギバミズゴケ節
 国内から記載され、この節に含まれるミズゴケは14種である。しかし、次の4種は疑問
種であるので削除して考えた。S. acutifolia var. flavescens, S. decladum, S. pallens,
S. subacutifolium.
1.茎は青緑か黄、時に赤色になる。植物体全体は緑か赤色である。         2
1.茎は褐色である。植物体は茶、緑、時にわずかに青みがかる。         10
2.茎葉は舌状あるいは三角形で最先端がわずかにぎざぎざとなる。また茎葉は茎に対して
    直立に開出するか下垂する。茎の皮層細胞に孔がない。             5
2.茎葉は舌状、先端は丸く、ぎざぎざになる。茎葉はほとんど直立し茎に付着する。茎の
    皮層細胞に大きな丸い孔がしばしばある。                   3
3.植物体は完全に緑色、赤い色素は痕跡さえない。                4
3.植物体は色とりどりの赤や緑、時にほとんど緑となる。 ミヤマミズゴケ S. robustum
4.茎葉の先端と両端がぎざぎざする。                  ヒメミズゴケ S. fimbriatum
4.茎葉の先端のみが広くぎざぎざとなる。          ホソバミズゴケ S. girgensonii
5.枝葉は明瞭に列となる。茎葉は比較的短く広い。                6
5.枝葉はまったくあるいは不明瞭に列となる。茎葉は短くあるいは長い。      7
6.枝葉の上部の背側の透明細胞の孔は小さくて丸く、広く縁取られる。
                              ワルンストロフミズゴケ S. warnstrofii
6.枝葉の上部の背側の透明細胞の孔は卵状で大きく、より狭く縁取られる。
                           ゴレツミズゴケ S. quinquefarium
7.茎葉は舌状あるいは舌状的三角形で先端が丸くなる。舷は明瞭であるが時に、葉身細胞
    に変化するところが漠然とするし、基部の方では未分化の細胞のところで広がる。 8
7.茎葉は広く卵形かあるいは長く三角形(二等辺三角形)、先端は丸くあるいは短くとぎ
    れる。舷ははっきりと葉身細胞から分化しており、葉の基部で広がるときもある。 9
8.茎葉は舌状で先端は広く丸い。葉の背面の透明細胞は短い長斜方形となり肥厚糸はない
    かあるいはかすかにある。まれに孔もある。しかしほとんどの全ての細胞はうすい交叉
    する細胞壁で2ー4室に分かれている。            ウスベニミズゴケ S. rubellum
8.茎葉は舌状的三角形で長い。背面の透明細胞は短くあるいは長く、肥厚糸もあったりな
    かったりする。また孔も時々あり、その細胞はうすい交叉する壁で3ー4室に分けられ
    ている。                      スギバミズゴケ S. nemoreum
9.茎葉は二等辺三角形で、舷はほとんど広がらない。また肥厚糸や孔が茎葉の上部に残る。
    枝葉の先端が反り返る。                 ホソベリミズゴケ S. junghunianum
9.茎葉は肥厚糸がないかあるかであり、先端は内に巻いている。枝葉の先端が反り返らない。
                                     クラゲミズゴケ S. plumulosum
10.茎葉は舌状三角形で先端はせまく丸いか切れている。枝葉の背面の透明細胞には、多
      数の大きな孔がある。植物体全体は、全く粗大で乾いているときはわずかに光沢がある。
                              ニセワラミズゴケ S. subfulvum
10.茎葉は舌状で先端は広く丸い。枝葉の背面の透明債帽には小さな孔がある。植物体は
      ほっそりしていて、けっして光沢をもたない。        チャミズゴケ S. fuscum

F.ハリミズゴケ節 
 現在までに日本から報告されたのは12種であるが、次の4種は問題種であり、再検討が必要なので削除して考えた。Sphagnum acutum var. hakusanense, S. connectuns, S. drepano-
cladium var. latilimbatum, S. septatum。また変種についても削除して考えた。
1.茎の色は青白か緑か黄である。                        2
1.茎の色はこげ茶である。茎葉は広く丸なっており、先端はひらひらとなっている。また
    茎葉の透明細胞には肥厚糸がない大きな植物体である。 サバミズゴケ S. lindbergii
2.下垂枝は多少曲がっており、茎をわずかにおおっているかあるいは全く覆っていない。
    また下垂枝は開出枝よりも短い。茎葉は茎を強くまいており、かつ多少開出し、上部の
    透明細胞には肥厚糸がある。                         3
2.下垂枝は全部あるいは部分的に茎を覆っており、下垂枝の葉はまっすぐか多少うねり、
    開出枝の葉よりもせまくかつ長い。茎葉は平らあるいは内側に巻き、下垂せずにその透
    明細胞には肥厚糸がないか、あってもわずかである。              6
3.茎葉、枝葉とも卵状で、その形態は同じである。植物体は小さく、もっとも繊細である。
                               ワタミズゴケ S. tenellum
3.茎葉と枝葉が形態上全く異なる。                        4
4.枝葉の背面の透明細胞には多くのしかも大きな孔がある。植物体の色はさえない、ある
    いは明るい緑色である。                           5
4.枝葉の背面の透明細胞には常に多数の孔がある。植物体の色は褐色で、枝の束はほとん
    どが4本である。                  シナノミズゴケ S. jensenii
5.枝葉の背面の透明細胞中央部には多数の大きな丸い孔が常に一列ある。   S. dusenii
5.枝葉の背面の透明細胞には全く孔がないか、非常に少ない。明るい緑色をした植物体で
    ある。                       ハリミズゴケ S. cuspidatum
6.茎葉は全縁かあるいは多少なりとも先端がきざまれる              7
6.茎葉は先端がわれるか深くひらひらとなる。      サケバミズゴケ S. riaprium
7.枝葉の透明細胞は線状楕円形で一定している。葉の基部には多くの小さな孔があり列に
    なっている。                             S. obtusum
7.枝葉の透明細胞は不定の長斜方形で、時に角張る。孔は前述したものより数は少ないが
    大きい。しかもそれらは不規則に並んでいる。    カンカクミズゴケ S. recurvum

G.ウロコミズゴケ節
 この節のミズゴケは、日本に2種産する。
1.植物体は大きい。茎の断面での透明細胞は2ー3層となる。茎葉は大きく舌状、枝葉は
    卵円形でほこ形であり、幅が広くなるところからするどく折れまがっている。
                           ウロコミズゴケ S. squarrosum
1.植物体は小さい。茎の断面での透明細胞は3ー4層となる。茎葉は舌状、枝葉は卵円形
    で披針形である。乾燥しているときに多少開出する。     ホソミズゴケ S. teres 』

| | コメント (0)

2008年7月 8日 (火)

苔の新刊本 『コケの謎』

仕事場に届いたクロネコメール便.
なんだろうと開封してみると,出てきたのは,

「コケの謎 ゲッチョ先生,コケを食う」
 盛口満著 どうぶつ社 定価1500円(税別)

うへ,新らしくでるコケの本だ.
奥付を見ると,7月22日発行とある.
巻頭にある数葉のイラストが素敵だ.

ゲッチョ先生とは残念ながら面識はないのだけれど,
謹呈で送っていただいた模様.
ありがたい.

冬虫夏草の本を2冊読んでいたので,まさか
コケの本を出されるとは思いもしなかった.

アマゾン書店で調べてみると,まだデータがでていない.
bk1では予約受付中.

目次を紹介すると,

パート1 コケ屋という病にかかる
パート2 コケって何?
パート3 そうだ,京都へ
パート4 南の島の不思議な事情
パート5 東京でコケ探検
パート6 そして,それは持病になった
最後に一言

| | コメント (0)

すごい映像のコケ植物ビデオ

コケを研究している友人からの情報で,
とてもすばらしい映像満載のコケ植物ビデオが
販売されていることを知りました.

このビデオが紹介されているのは「自然への窓」
というサイト.管理人の方が撮影されたものの
ようです.

コケ以外にもたくさんの生物のビデオが紹介・販売
されています.ただの概要紹介ではなくて,シナリオと
いくつかの動画サンプル(mp4など)もあって,
とても充実していて見応えあります.

コケ植物のビデオは
http://www.w-nature.com/moss0.htm

Quicktimeがあれば,動画サンプルを見ることができます.

ゼニゴケが育ち広がる様子は,すごいです.
一本1万円と良い値段ですが,買ってみることにしました.

| | コメント (0)

2008年7月 5日 (土)

苔類のおもしろい形 マルスピウム

Photo_2
苔類にはおもしろい形がいろいろあります.
写真に写っている白くて少しふくらんだ細長いのも
その一つ.植物は,Tylimanthus saccatusという苔類
(ハネゴケ科).キナバル公園で撮影したものです.

正確に言うと,マルスピウムと呼ばれる苔類に特有の構造.
日本にある種類では,ツキヌキゴケ属が時々立派なものを
つけることがありますが,茎の下側になかば地面に埋まる
ようにあるので,上からみただけでは目に入らないことが
多いです.

『marsupium:マルスピウム.苔類の雌花序をとりまく
小袋状の構造であり,卵の受精後に大きく発達するもの.
ペリギニウムperigyniumとも呼ばれる.』 (コケ植物 用語集から引用)
http://www.digital-museum.hiroshima-u.ac.jp/~museum/pages/kokeyougo/kokeyougoABC.html

少し写真に写っているものを説明すると,
斜め向きの茎を境に,左下方に延びるのがマルスピウムです.
右上方に延びるのが胞子体の柄と胞子嚢.
胞子嚢は裂開直前で,らせん状の裂開線がはっきりと
見えています.

写真の腕は悪いのですが,偶然とても上手に撮れた
奇跡の一品でした.

| | コメント (0)

地衣類を食べる蛾 ヨツボシホソガ

Photo
ヨツボシホソバ Lithosia quadra
ヒトリガ科コケガ亜科

シンクロニシティなのかなぁ.あるいは
知識があれば目にはいるってことか?

昨夜コケガ類のことを調べていたら,
今日偶然に壁に止まっているヨツボシホソガを
見つけた.

昨夜のことがなければ,ああ蛾が止まってるなぁ
くらいにしか思わず,きっと見逃していたに違いない.

幼虫は地衣類を食べるらしい.それで,「コケガ」.
また幼虫は毒針毛を持つので,ちょっと怖い.
刺されると7-8日は痛がゆい状態がつづくらしい.

背景はいかにも地衣類のように見えますが,
コンクリートの壁に吹きつけ塗装をしたものです.
三つ星しか見えませんが,翅を広げると四つ星に
なります.

| | コメント (0)

2008年7月 2日 (水)

公言すれば読むかも,,,

というわけで,とりあえず読むべき論文を.
コケ植物でも雑種形成による網状進化があって,それが系統解析を
難しくしている.ていうか,それこそが進化というものなのかも. いずれも
要旨だけであればネット上から無料で入手することが可能.

Shaw, Holz, Cox & Goffinet. 2008. Phylogeny, character evolution, and biogeography of the Gondwanic moss family Hypopterygiaceae (Bryphyta). Systematic Botany 33(1): 21-30.

Harris. 2008. Paraphyly and multiple causes of phylogenetic incongruence in the moss genus Plagiomnium (Mniaceae). Taxon 57(2): 417-433.

Hernandez-Maqueda, Quandt & Munoz. 2008. Testing reticulation and adaptive convergence in the Grimmiaceae (Bryophyta). Taxon 57(2): 500-510.

| | コメント (0)

2008年6月29日 (日)

構造色をもっているジンガサゴケ

Dsc02201
昨日,今日と野外での観察会がありました.
小雨に濡れることはあっても,大雨に遭うこともなく,
また雲が高くて薄暗くもなく,観察会は盛況のうちに終了.

今日あったコケ観察会で,これまで全く気づかなかった
ことを,参加者に教えてもらった.

少し濡れたジンガサゴケ葉状体裏を見ると,なんと
虹色に輝いているのだ.知らなかった!

標本を採ってきたので,乾いたときにどうなるのかを
確かめているところ.

これもまた構造色なのだと思います.
屋久島のジャバウルシゴケの色のことを書いたところ
だったので,偶然の一致に驚きました.

| | コメント (0)

2008年6月26日 (木)

コケの花言葉 母性愛

コケに花言葉あることは知っていたのですが,
なぜ「母性愛」なのか,特に気にしていませんでした.

今日,人からその理由を尋ねられたので調べてみると
mossの語源にも関わっているようで面白いです.

せっかくなので,その質問と回答を下に書き写します.

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
質問
>苔の花言葉は「マザーラブ」と言われていますが、その理由を何故だとお考えでしょうか?
>また,苔の発見の歴史はどのくらいなのでしょう?

発見の意味がちょっとわかりにくいですが,ひろい意味でのコケ(地衣類を含む)は,西洋ではギリシャ時代以前から人々に認識されていたようです.
中国については,日本蘚苔類学会会報の5巻5号に掲載されている「安藤久次 コケのシンボリズム I」という論文がとても参考になります.

花言葉については調べたことがなかったので,なんの情報もないのですが,,,,
問いかけられたを機会に,ネットで検索してみるといろいろなことがわかって面白いですね.

まず,誕生花に隠花植物のコケが選ばれていることが驚きです(これは前から知っていました).
もっとも,1月22日,8月10日,12月2日など情報源によって日付がバラバラなのが気になります.
複数の著者がかなり恣意的に,日付と花,そして花言葉を組み合わせたのでしょうか.

Wikipediaをみると,それでも原典となる「花言葉」の書物があるそうで,はて,それでは何日になっているのか,気になるところです.
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E8%A8%80%E8%91%89

さて,花言葉からずれてしまいましたが,「母性愛」となった理由については,自分で考えたことがないので特にこれという意見はありませんが,以下の2つのサイトのお話が,私には一番もっともらしいように思われます.
地中の病原性菌類から針葉樹の稚樹を守り育て,彼らにとって天然の育苗床となり,そうやって森林を維持することもコケ植物の果たす大切な役割ですから,いかにも母性愛らしい感じがします.(ちなにみ,これが倒木上更新が起こる理由です).

http://www.mie.to/birthday/fd.cgi?year=0&look=1&look2=29

http://www001.upp.so-net.ne.jp/Mikan/hana/all/k5.htm

知らなかったので,ついでにmossの語源を調べてみると,たしかに沼沢地やミズゴケ湿原に生えることから由来しているのですね.たとえば,

○The American Heritage dictionary
ETYMOLOGY: Middle English, from Old English mos, bog, and from Medieval Latin mossa, moss (of Germanic origin). 

○Online etymology dictionary
moss = O.E. meos "moss," related to mos "bog," from P.Gmc. *musan (cf. O.H.G. mios, Ger. Moos), also in part from O.N. mosi "moss, bog," and M.L. mossa "moss," from the same Gmc. source, from PIE *meus- (cf. L. muscus "moss," Lith. musai "mold, mildew," O.C.S. muchu "moss"), from base *meu- "moist, marsh." All the Gmc. languages have the word in both senses, which is natural since moss is the characteristic plant of boggy places. It is impossible to say which sense is original.

mossといっても(日本語の『こけ』と同様に),本当の蘚苔類とは別の植物(特に地衣類)を指すこともあるので,注意が必要です.たとえば,
 Iceland moss (地衣類Cetraria islandica 薬草)
 reindeer moss (地衣類Cladonia いわゆるトナカイゴケ)
 Spanish moss (パイナップル科チランヂア属.いわゆるエアープランツの仲間))
 Kate moss  (歌手),,,(^_^;)

| | コメント (0)

2008年6月15日 (日)

ジャバウルシゴケ(苔類)の不思議な色

200702_jubula_javanica_6
今思い出したのだけど,屋久島で見た
半ば水の流れに浸るように群落をつくっていた
ジャバウルシゴケは,独特の色をしていた.
ちょうどコンテリクラマゴケのよう.
植物体に色がついているのではなく,光の
かげんでそう見えるときがあるので,構造色の
ようなものだろうか.

上の写真の右下あたりの色を見てください.
カメラ写りの問題ではなく,肉眼でも同じ色あい
でした.

| | コメント (0)

2008年6月12日 (木)

科博コラボ・ミュージアム in ひとはく

Photo

国立科学博物館が各地の博物館と共同で開催している
「科博コラボ・ミュージアム」.

この7月6日~13日の間,三田市にある人と自然の博物館において
絶滅危惧植物の保全への取り組みというテーマで開催される.

詳しくは,ポスター画像をごらんください.
7月6日には公開講座やコケ玉づくり実習講座も予定されています.

| | コメント (0)

2008年5月28日 (水)

ミズキャラハゴケ続き 図版

図版1-12です.葉形と,葉先の形状,葉細胞,葉基部
そして偽毛葉の写真です.

見にくいですが,これが限界のサイズのようです.

  Photo_5

| | コメント (0)

ミズキャラハゴケと水草水槽

まだ推敲が十分ではないのですが,とりあえず載せます.
不備を見つけたときには適宜修正してゆきます.図版は次のエントリーに掲載します.

「だ,である」で文章を書くには,ほんま,苦手だ.

ミズキャラハゴケ再訪:アクアリウムに使われる蘚苔類

 熱帯魚水槽やアクアリウムには,様々な植物が水草として利用されている.その多くはサトイモ科やトチカガミ科,あるいはオモダカ科といったような顕花植物であり,またミクロソリウムに代表されるシダ植物が占めている.葉の切れ込みや色合いがとても変化に富んでいることはもちろんだが,野外において水中や水辺で生育する野生種の中から水槽内の環境に合致した種が選抜される訳なので、どうしても種多様性が高い高等植物が中心となるのだろう。しかしながら、近年における育成技術の進展ととも、コケ植物の利用も急速に盛んになってきている(秋山・高城 2006, 秋山 2008、高城 2008、山崎 1996Tan & al. 2005).

 コケ植物を水草として水槽内で育成・利用すること自体はそれほど目新しいことではなく,たとえば高木他(1982)はコケ植物が水草として利用される実態を紹介する中で、すでにいくつかの種がひろく流通していたことを実地調査に基づいて明らかにしている(もっとも、観賞を目的としてコケ植物を水槽内に導入することはまだ一般的でなく、熱帯魚の産卵床としての利用が主たる用途であった)。彼らがミズキャラハゴケやヤナギゴケについて論じた際、当時すでに両種の流通名(あるいは「通称名」というべきか)に混乱が見られたことに言及されている。この混乱は残念なことに現在も続いており,異なる種が同一の商品名で販売されていることも決してまれではない。さらに育成技術向上とともに市場に流通する種類が増えていることや、販売店で購入したものを自らの水槽中で増殖させ、インターネット等を通じて再販売する際に、同じ水槽中の別種と混同することも少なくないようで、これがさらに混乱の度が増加させているようである(秋山・高城 2006、高城 2008).

ミズキャラハゴケとはどんな形をした蘚類なのか (図1-12

 流通する際の名称(「通称名」あるいは商品名)についての考察は後で触れることとして,ここではミズキャラハゴケという和名が付けられたコケ植物について改めて紹介したい。

当時国内外の水族館や販売店で広まっていた水生蘚類の正体はじめて明らかにしたのは高木他(1982)であり、ここで初めてミズキャラハゴケという和名が使われた.残念なことに、この報告にはミズキャラハゴケの特徴を示す写真が載せられているにも関わらず,名前だけが広がり和名だけが一人歩きしているのが現状のようである。

ミズキャラハゴケの形態的特徴は以下のようにまとめることができる:(1)主軸(一次茎)は長く伸びて,ややまばらに羽状分枝する。側枝(二次茎)は一次茎側面から左右水平方向に伸びる。(2)茎に対して葉は平面的に並び、主軸・側枝につく葉の大きさや形の際は小さい。(3)葉は卵形でやや左右非対称。茎に付着する位置によってことなるが、葉縁の一方が内曲してわずかにくぼむことが多い。葉先は鈍頭から円頭で,ときにやや鋭頭あるいは短尖頭。(4)葉中央部の細胞は線形で,長さ50-100 μm、幅8-10 μm程度、やや蛆虫状となり薄膜,細胞壁上端はわずかに突出(prorate)する傾向があるが,平坦な場合も少なくない。(5)葉中央部に比べ、葉先の細胞は短くなる。とりわけ葉頂の数細胞は、短い矩形となる。(6)翼部の細胞はほとんど分化しない。(7)葉縁平坦で、舷は分化しない.全周がはっきりとした微鋸歯があり,特に葉頂では顕著である。(8)中肋はかなり変異がみられ、全く欠く場合や,一本あるいは叉状で短い場合が多いが,時に葉長の1/4に達することもある。(9)偽毛葉は,線状披針形から披針形(基部で2-4細胞幅)、時に広披針形となる。(10)水中あるいはしめった陸地上で胞子体をつけることがある.

葉頂の形状は個体間でばらつくだけでなく,ときには同じ茎上の葉の間でも変異が大きい。葉細胞の幅も同様に個体によってばらつきがあるが、ときに高木(1982;図5)のように,中央部付近でも幅が広くなって,フクロハイゴケ属の葉細胞を思わせることもある.

フクロハイゴケ属Isopterygiumキャラハゴケ属の近縁種からは、水平に分枝する枝、やや非対称形となる葉、鈍頭気味の葉頂、葉縁全周に顕著なcrenulationに注意すれば識別することはそれほど困難ではない。

キャラハゴケ属とその近縁属の定義 の問題

偽毛葉とは、茎(あるいは枝)原基の周囲を取り囲むように、枝原基周囲の茎()表皮から生じる側生器官である。この点、葉を切り出す前の枝原基表皮から生じる単細胞列の糸状(filamentous) “偽毛葉”(典型例はヒムロゴケ科)、あるいは枝原基の成長によって切り出されてくる鱗片葉(scale leaves)とはその由来が異なっている(これについては、Akiyama 1990, Akiyama & Nishimura 1993参照)。ミズキャラハゴケの枝原基を取り囲んでいるのは、その披針形の形状と枝原基に対する位置から判断して明らかに真性の偽毛葉である。仮にこの偽毛葉に糸状の形のものが混じっていても、それは枝原基表皮 に由来する糸状 “偽毛葉”(適当な用語がない)とは異なるものである。

ミズキャラハゴケの偽毛葉の形状はかなり変化に富み、シロイチイゴケ属Isopterygiumのような糸状(単細胞列)の偽毛葉が混じることが稀にある。また時には偽毛葉を全く持たないように見える枝原基があって、その場合には枝原基がつくる鱗片葉との区別が難しいこともある。しかしながら、そのような場合でも、他の原基を観察すればかならず狭披針形の偽毛葉が見つかるので混同は避けられる.

Iwatsuki1963, 1987)はキャラハゴケ属とその近縁属を合理的に定義する上で、偽毛葉の形状が有効であることを明らかにした。その成果をまとめると、(1)キャラハゴケ属では偽毛葉は葉状~狭披針形(基部は3-4列)、(2)シロイチイゴケ属では偽毛葉が糸状、(3)アカイチゴケ属Pseudotaxiphyllumでは偽毛葉を欠く、というものである。それまで識別が困難であったこれらの属を理解する上で大きな貢献であり、また現在も属の重要な定義形質の一つとして広く認知されている。当初シロイチイゴケ属として記載されたミズキャラハゴケIsopterygium barbieri Cardot & Copp.に対してTaxiphyllum barbieri (Cardot & Copp.) Z. Iwatsukiの新組み合わせをIwatsuki1982)が提案したのは、ミズキャラハゴケの葉細胞先端がわずかに突出(prorate)することや,偽毛葉が狭~広披針形[原著には葉状 (leafy)と記述されているが、これは誤解を生じやすい表現だろう]となる点を重視したもので、現在もキャラハゴケ属のメンバーとする意見が一般的である。

しかしながら、披針形の偽毛葉をもつ近縁属間では、属間の識別の難しさが依然として残されているのも事実である。キャラハゴケ属に形態が類似し、似た形状の偽毛葉を持ち、属内に水生種が知られている蘚類としては、同じハイゴケ科のフクロハイゴケ属、ウシオゴケ属Ectoropotheciumがあるが,両属とキャラハゴケ属の境界は,実はそれほどはっきり定められてはいない.まして,仮に形態でまとまるとしても,それが系統を反映した自然な群を表しているのかどうかについての検討は,今後の課題として残されている.フクロハイゴケ属はこれまでに記載された種は200種近くあり,その多くが水生ないし湿地に生育する.生育環境による種内・種間における形態変異の全容が十分には把握されていない状態である.これまでに膨大な種が記載されたウシオゴケ属では,問題はフクロハイゴケ属に深刻で,いまだほとんど種の整理が進んでおらず、分類学的取り扱いがもっとも困難な分類群のひとつとされている.さらに、近縁属の整理が進むにつれ、取り扱いが確定できない種をとりあえず所属させる、いわゆる「便利箱catch-all」としてウシオゴケ属が扱われてきた経緯もあり,さらに取り扱いを複雑にしている.

たとえば,ウシオゴケ属の定義自体を考えてみるとハイゴケ属と比べて小ぶりの胞子嚢をもつことがその主要な定義形質である。その後、葉翼部と茎の接着点に大型薄膜の一個の細胞の存在することがウシオゴケ属の多くの種で共有されていることがわかってきたが、なかにはハイゴケ属のような複数の透明細胞を持つ種もあり、また逆に近縁属(たとえばハイゴケ属、フクロハイゴケ属、ヒラツボゴケ属Glossadelphusなど)でも,ウシオゴケ属と同様の大型薄膜の細胞が観察されることもある。よくまとまったグループとして長らく認められていたハイゴケ属やキダチゴケ属Hypnodendronなどが、実は多系統群であることが近年の分子系統学研究から示されているが(Bell & Newton 2005他)、ウシオゴケ属も同様に多系統群であろうことは容易に予想される。このような事情があって,キャラハゴケ属,フクロハイゴケ属,そしてウシオゴケ属の関係は,近縁の他属も含めて属の定義から再検討しなければならない状態にある.

 ところで東南アジアのボルネオ島西岸域にはTaxiphyllum fluitansBroth.という種が知られていて、ミズキャラハゴケと同様に水中にまばら分枝する平板な植物が広がって群落をなしている.両者はよく似た葉形をしていて一見みわけがつきにくいほど似ている.しかしながら,T. fluitansの枝原基は糸状偽毛葉に覆われていて,披針形偽毛葉をもつミズキャラハゴケと異なっている.T. fluitansは枝原基週への形状から判断してシロイチイゴケ属に分類されるべきだが、これまでにタイプ標本以外にはほとんど知られていない種であり、その所属は今後の検討課題である。

国内でのコケ植物の水草利用と新たに持ち込まれたサンプル

コケ植物の葉はただ一層の細胞の厚みしかもたない.水槽内にコケ植物を用いる利点の一つは,この特徴に由来する独特の色合いにある.透明感ある浅い緑色は,他の植物には見られない美しさであり,レイアウト素材してアクアリムに独特の雰囲気を与えることができる.水槽中に二酸化炭素を人工的に添加することで盛んに光合成を行わせることが可能であり,その結果生じた酸素の泡が植物体に多数まとわりつく様子は,他の植物で味わえない独特の魅力となっている。試みにインターネットで検索すると、気泡に包まれたウキゴケ(カヅノゴケ:水草としては「リシア」という名称が使われている)群落が育成用ランプの光を受けて輝いている姿を多数見ることができる。もちろんウキゴケだけでなく他のコケ植物でも同様の姿を作り出せる.

 1990年代に,ウキゴケを水槽底面に隙間無く敷き詰め,あたかも西洋公園やゴルフ場の芝のようにつくりあげる手法が確立されたことは,水草水槽レイアウトに大きな変化をもたらした.本来は水面直下になかば沈んだようにして生育するウキゴケ(水中形)を,二酸化炭素添加というテクニックを開発することで,水槽底面に沈めて育てるものである(伴野 2003).これがきっかけとなってウキゴケに限らず多くのコケ植物が,水草水槽のレイアウト用素材として積極的に利用され広く認知されるようになった(秋山・高城 2008,伴野 20032006, 高城 2008, 山崎・桜井 1996).

 しかしながら、現在アジアでコケ植物の水草利用がもっとも盛んに行なわれているのは、シンガポールや香港、台湾といった国々である(高城 2008)。もちろん日本でも、野外から採集したコケ植物を自分の水槽中に沈めて水草化を試みる愛好家が少なくないが,その多くは個人的趣味の範囲にとどまり,栽培についての情報がインターネット上に公開されているにしても、広く商品として流通するまでには至っていない.

 『(前略)すこし前までは日本のレイアウト水槽に世界一美しいコケ植物を見ることができた。しかし、そこから影響を受けさらに発展させていったのは、香港や台湾のレイアウターだった。レイアウトのコンテストやインターネットのサイト上で、新しい可能性を美しく提示しているのは我々ではなく彼らの方である。手にしている種類もじつに豊富で、日本では見たことのない種類が、単なるコレクションアイテムとしてではなく、レイアウト水槽で見事に有効活用されているのだ。(後略)』(高城 2008

 アジアにおけるコケ植物水草流通中心地の一つであるシンガポールから,未開拓かつ一大消費地である日本に向けて、一昨年以来サンプル商品が出荷されている。この見本品が持ち込まれた東京都内の観賞魚・水草専門店「市ヶ谷フィシュセンター」の担当者から、サンプル品の同定を依頼された。その一部は熱帯魚・水草専門の商業誌に掲載され(秋山・高城 2006,秋山 2008),限られた紙面ながらコケ植物の水草利用の多様性がを伺うことできる.20082月にシンガポールで開催された絶滅危惧蘚苔類のワークショップに参加した際,数軒の水草販売店を訪れ当地の様子を知ることができた.その多くは売り場面積が数坪程度の小規模店なのだが,店内には数多くの水槽がところ狭しと設置され,10種以上の蘚苔類が育成されている(案内をしてくださった方によれば郊外にはもっと大規模に生産を行っている業者もあるとのこと).各店舗には熱心なファンがコケ植物の水草を買いもとめに訪れている。また、ひろく利用されているシリアやミズキャラハゴケは,栽培・増殖が容易なこともあって値崩れを起こしており、他の店が在庫を持たない(つまり高価に取引できる)新規商品の開発に取り組んでいるとの話からも,供給・需要両面でなるほどアクアリウム趣味が盛んなことを実感した.

 そういった業者から今回日本にサンプルが持ち込まれたコケ植物を列挙すると,現在もっとも高価に取引されている北米原産のフェニックスモスFenix moss(ホウオウゴケ科Fissidens fontanus)のほか、クリスマスモスChirstmas moss、エレクトモスErect moss、シンガポールモスSingapore moss、クリーピングモスCreeping moss、ウィローモスWillow moss、タイワンモスTaiwan moss、フレームモスFlame moss、ミニクリスマスモスmini Christmas mossなどがある(いずれも商品名)。

フェニックスモスのように容易に同定が可能な種もあるが、多くは分類学的研究が行き届いていないフクロハイゴケ属やキャラハゴケ属の蘚類で、また長く水中で育成されたために陸上に生育するときと多少とも異なる形態を示しており,正確な同定は難しい場合が多い。時には学名で流通しているものがあり,その例としてPallavicinia sp.Monosoleiumがあげられる。残念ながらともに同定間違いであり、その実体は前者が本当のヤワラゼニゴケ、後者は葉状になるシダ植物前葉体であった。

  一見して明らかなように、これらの商品名はその見た目や想定される原産地にちなんで名称がつけられている。ところが、見た目というのは見る人の主観によるものでしかない.また人から人へと流通する間に原産地についての情報が失われることもある.こういった事情も,商品名の混乱に拍車をかける要因となっている。これは決して国外だけに見られる事情ではなく、たとえば日本国内で流通している南米ウィローモスを取り上げてみると、その正体は取り扱う業者によって異なっており、著者が確認しただけでも二種(Vesicularia dubyana=Java mossTaxiphyllum sp.)があった。さらにウィローモスとは本来クロカワゴケFontinalis antipyreticaに付けられた,世界で広く使われている通称名であることを考えると,一般に国内の水草を扱う世界では南米産のものが珍重される傾向が強いにしも(高城 私信),南米ウィローモスとはまったく不適な名前だろう.さらに、ジャイアント南米ウィローモスという商品まであるのには,いかに商売とはいえ苦笑せざるを得ない。

通称名の混乱と今後の取り組み

上記のように、水草として流通しているコケ植物で問題なのは,それぞれの「商品」につけられている名前(流通名)と学名との対応が安定しておらず,恣意的であり,そしてしばしば間違っていることにある.その原因は、すでに述べたように,ほとんどの場合に原産地が明らかでないこと、国外から取り寄せたものをタネにして自家水槽で増産・再販売する例が少なくないこと、そのときに幾種類も同じ水槽内で育てるためにいつのまにかコンタミが起こる,などがあげられる。結果、業者によって同じ種に別の名が付けられて販売されるという事態が生じている。

その典型例がウィローモスとャワモスである。両者ともに古くから栽培され、広く流通しているコケ植物の水草である。そのため誤解も相当に蓄積されている。本来はカワゴケ属のクロカワゴケをさす名称だったウィローモスが、実際に販売される時には、ヤナギゴケ属ヤナギゴケLeptodictyum ripariumであったり、あるいはミズキャラハゴケであったりすることは少なくない(山崎・桜井1996、秋山他2002、著者自身の購入品の同定)。

 またジャワモスとは、本来フクロハイゴケ属のVesicularia dubyanaに付けられた商品名であるが(山崎・桜井 1996他),ここでも様々な種がジャワモスの名の下に流通している。山崎・桜井 (1996)によれば,『本来のウィローモスはFontinalis antipyretica(クロカワゴケ、シミズゴケ)である。しかしミズキャラハゴケも丈夫で、色彩も明るい緑色なので人気が高く、これをウィローモスと信じている人が多い。』との記述がある。その一方、同書には、『我が国では、陽の長く当たる平野部の小川に生える。』との記述もある.湧水や山間の渓流など,水温さえ低ければ低地に生えることもあるカワゴケ属だが,上記の文章に書かれた生育環境から判断すると,著者らはヤナギゴケと混同している可能性もある.(Tan et al. 2005 )によって,ジャワモスの正体はミズキャラハゴケであるとの結論が出されたこともあり,当時はこれが最終的な解決となると期待されたのだが、後に著者の一人によって、ジャワモスとして参照したサンプルが実はジャワモスとは別物であったことが指摘されている.(http://fins.actwin.com/aquatic-plants/month.200705/msg00299.html  2008/05/23 参照)。

このように,せめてルーペを用いて観察すれば簡単に避けることのできる程度の誤解がひろまっていることは、維管束植物のサイズに慣れ親しんだ人にとって、コケ植物を特徴づける「小さな植物体」では、あえて識別しようという気持ちが起こらないのだろうかといぶかしく思ってしまう。そして,見かけ上のおおざっぱな類似だけで安易に手元の水草の名前を決めてしまうこと,おそらくは適当に付けられたにすぎない店舗での表示を盲信してしまうこと、さらには、自分の水槽で繁殖させたものを二次的・三次的に流通させるさい,意識的か単なる誤認かは別として,別種との混同が起こってしまうこと、こういったいくつもの原因が複雑に絡み合って現在の通称名の混乱がもたらされたのだろう.この混乱については、高城 (2008)による、販売者側からの指摘が非常に参考になる。

商品として流通させる際の名前と学名との相互関係に見られる混乱は、すでに合理性と論理性にもとづく科学研究という枠組みをすでに超えているが,.こういった現状を考慮しつつも通称名の混乱に惑わさず,分類学的整理を進めることでまずはそれぞれの種の概念をしっかりと確立させることこそが、時間はかかるが混乱をおさめる唯一の解決法といえる。たしかに,特徴をよく表した商品名は,販売等に際して便利で人目を引くことを否定できない。その反面,混乱した商品名による弊害はきわめて重大で看過できない状態になりつつあるのも事実である。(同じブランド名で違うものが売られていては,信用にかかわる一大事のはず).これを効率的に解決するために,これまでほとんど交流のなかった,分類学を専門とするコケ植物の研究者と,現状を熟知する水草専門家とが緊密に協力しあうことが強く求められている.

引用文献

Akiyama, H. (1990).  A morphological study of branch development in mosses with special reference to pseudoparaphyllia.  Bot. Mag. (Tokyo) 103: 269-282.

Akiyama, H. & N. Nishimura (1993).  Further studies on branch buds in mosses; “pseudoparaphyllia” and “scaly leaves”.  J. Plant REs. 106: 101-108.

秋山弘之他 (2002).  コケの手帳 研成社 東京

秋山弘之(2008). アクアリウムに登場した新しいコケたち アクアプランツ(月刊アクアライフ5月号増刊)No.05: 92-95

秋山弘之・高城邦之(2006). ウィローモスを取り巻くコケの世界 アクアライフ 200610月号(No.327: 74-83.

伴野準一(2003). ニッポン熱帯魚伝説-すべてを賭けた三人の男たち- 文芸社,東京.

Bell, N. E. & A. E. Newton (2005).  The paraphyly of Hypnodendron and the phylogeny of related non-Hypnanacean pleurocarpous mosses inferred from chlorophlast and mitochondrial sequnece data.  Syst. Bot. 30: 34-51.

Iwatsuki, Z. (1963).  Bryological miscellanies XII-XIII. J. Hattori Bot. Lab. 26: 63-74.

Iwatsuki, Z. (1982).  A new combination of an Asiatic species in Taxiphyllum.  Misc. Bryol. Lichenol. 9: 115.

Iwatsuki, Z. (1987).  Notes on Isopterygium Mitt. (Plagiotheciaceae).  J. Hattori Bot. Lab. 63: 445-451.

Tan, B. C., Leon, L.-K. & Weei, G.-C. (2005).  A case of mistaken identity?  What is the true identity of Java moss and other aquarium mosses. Singapore Scientist 12: 8-11.  (インターネットリソースとして公開:http://www.killies.com/Truthaboutmosses.htm

高城邦之 (2008). アクアリウムの登場した新しいコケたちアクアプランツ(月刊アクアライフ5月号増刊)No.05: 99-101

高木典雄・渡辺良象・岩月善之助 (1982).  淡水魚水槽中の観賞用水生蘚苔類.日本蘚苔類学会会報 3: 65-68.

山崎美津夫桜井淳史 (1996).  水草カタログ~日本と世界各国の美しい水草274種~  永岡書店、東京.

| | コメント (0)

2008年5月21日 (水)

それほど黒くないクロゴケ

原稿再録です。
MacOSでは「蒴」が文字化けするかもしれません。
サク(capsule、「朔」に草冠)です。

ーーーーーーーーーーーーーー
 ミズゴケ類とならぶ原始的蘚類であるクロゴケ類は、
分類学上はクロゴケ綱として独立させられており、1科
2属だけが含まれる。世界におよそ90種ほどが高緯度
地域や各地の高山など、おもに寒冷な気候の場所から知
られている。日本からは、クロゴケそしてガッサンクロ
ゴケのわずか2種が知られているにすぎない。

ガッサンクロゴケは高山帯に分布が限られ、雪田下の
など雪解け水が流れる小さな沢沿いの岩の側面に生え、
茎は長く伸びのが特徴的である。のびた茎は岩に張り付
くように生えているので、あまり目立つことはない。
ガッサンクロゴケは日本国内での産地が限られており、
環境省版レッドデータブックでは絶滅危惧植物に指定さ
れているが、白山や立山などでは比較的大きな群落をみ
ることができる。

もうひとつの日本産種であるクロゴケはごく普通種で
ある。世界に広く分布しているが、日本やアジアのクロ
ゴケは、雌雄性の違いにもとづいて変種レベルで区別さ
れている。山地から高山まで、特に稜線沿いの明るい場
所にある大きな岩の上などによく生育している。まれに
標高数百mほどの低山地から報告されることもある。岩
の表面にしっかりと固着した背の低い群落をつくるため、
指先でむしり取ろうとしてもなかなか難しい。晴天時に
は植物体が乾ききっているため壊れやすくなおさらである。
またクロゴケの群落は、その基部に風で運ばれた砂などが
多量にトラップされていてることが多く、標本が砂だらけ
にもなりやすい。少しづつ丁寧にとることが肝要なのであ
り、純群落をつくっているわりには採集するのがけっこう
面倒である。

 クロゴケという和名から黒々としたコケを想像するかも
しれないが、実はその植物体はやや赤みを帯びた黒色をし
ている。他にもずっと黒い色のコケがいくらでもあるので、
なれないうちは野外では誤解しやすいかもしれない。色が
黒っぽいのは強い日射による光障害に対する適応なのだろ
う。

葉の細胞全面にパピラが発達しているのも、乾燥への対
処とともに入ってくる光を散乱させる役割があるのかもし
れない。乾いたときは植物体から水分が失われてカラカラ
になって休眠しているが、早朝の露や霧がでたりすると体
表面全体から水を急速に吸収して光合成を再開することが
でき、日中ひどい乾燥にさらされる環境に生育するうえで
うまく適合した性質を備えている。

乾燥したときには体内の水を急速に失って休眠に入り、
ひとたび雨がふれば体表全面から水を吸って急速に活動を
再開するこのような性質を「変水性(poikilohydry)」と
呼ぶ。石垣に生えるシダやイワヒバの仲間、地衣類などの
下等植物にはかなり一般的な性質で、コケ植物ではクロゴ
ケ以外にも、乾きやすい場所に生育する種類に広くみられる。  

 クロゴケ類が原始的とされる理由はいろいろあるが、
もっともわかりやすいのは蒴の裂け方である。一般にコケ
植物では蒴には蓋が分化していて、この蓋がはずれること
で胞子が外に出るための開口部ができるのだが、クロゴケ
の蒴ではこの蓋がもともと存在せず、かわりに蒴側壁中央
部に縦に4つの裂け目ができる。この裂け目から胞子がこ
ぼれでるのだが、その様子はルーペを使えばはっきりと見
ることができる。

クロゴケには蓋がないので、もちろんその内側に生じる
蒴歯もない。蒴がどのように裂開するかは、シダ植物の胞
子嚢、あるいは被子植物の果実の場合と同じで、分類学的
に重要な形質とされているのである。

クロゴケは一時ナンジャモンジャゴケとの類縁性が指摘
されたこともあるが、少なくとも蒴の裂開の仕方に関して
は、螺旋状に裂開線がはしり、ちょうどトイレットペーパ
ーの芯を開いたような感じになるナンジャモンジャゴケの
蒴とは全く異なっている。

| | コメント (0)

2008年5月15日 (木)

ミヤケツノゴケ無性芽 補遺

白い半球状のものは,柄が伸びる前の無性芽でした.
白く見えるのは,内部に油性と思われる物質が充満しているため.これがあまり含まれていないと緑色に見えます.
その後無性芽の基部から柄が伸長して,結果,長い柄の先に球形の無性芽が載っている形になります.柄も緑色の濃いものから,薄緑色で半透明のものまで,太さによってまちまちのようです.

Anthoceros laevisには,無性芽のつく位置で3つの型があるそうで,それらは
1)葉状体成長点のすぐ後の背面
2)葉状体側縁
3)葉状体背面
日本のAnthoceros属では,ミヤケツノゴケともう一種イボイボツノゴケA. gemmiferが無性芽をつけ,両者ともに(3)の型です.(ちなみにニワツノゴケA. carolinianusは無性芽をつけません)

ただしできあがった時の形状が異なるだけで,本質的には同一のものなのだそうです.
(頂端で生じた新しい成長点がすぐに無性芽に発達すると(1)の型になり,成長点が休眠芽となって葉状体の発達とともに後方側面に移動し,そこであらためて分裂を再開すると(2)の型になり,さらに葉状体の側方への成長にともなって腹面に移動すると(3)の型になる,というわけ.

参考文献
Proskauer (1948) Studies on the morphology of Anthoceros. I. Annals of Bot., Ser. 2, 12: 237-265.
 (手元になく未見)
長谷川二郎 (1978) ニワツノゴケとミヤケツノゴケの関係 日本蘚苔類学会会報 2(6): 75-76.
(上の記述は,この論文を参考にしました.)

| | コメント (0)

2008年4月15日 (火)

蘚類ハリガネゴケ科 オオカサゴケ

Photo

写真のコケは,オオカサゴケ.
数あるコケ(蘚類)の中で,姿形がもっとも
美しいもののひとつ.地上部の高さは5-6cm
くらい.

写真のものは,キナバル公園で撮影したもの.
日本のものよりも少しだけ,茎の先端に集まって
つく葉の数が少ないような気がする.

北半球にひろく分布しているが,果たして同一種
かどうかは定かではない.

おもしろいのは成長の仕方.
地面の下数センチの深さのところに匍匐茎を長く
伸ばし,ある程度伸びると先端が立ち上がって
地上茎となる.翌年伸びる予定の芽が立ち上がった
茎の基部にあって,それが再度地下を伸びてゆくことで,
生育地を広げながら毎年新しい地上茎をつくりだす.

写真の真ん中右上にみえているのが,今年伸びて
くる新しい地上茎.
(このような分枝の仕方を仮軸分枝という.
茎の先端がそのままずっと伸び続けるのは単軸分枝)

コウヤノマンネングサやフジノマンネングサも
同様な方法で増えていく.もっともこの2種は
広い場所を占める大集団をつくることがあるが,
オオカサゴケはあまり大きな集団になることが
ない.

地上茎は3年くらいは緑色を保っていて,しっかりと
光合成をしているように見える.
4年以上たつと痛みが激しくなり,もっと古くなると
茎だけがのこっている.

長いものでは8年分くらいの,つまり8本の地上茎が
つながっているのを観察できることもある.

栽培は容易だが,栽培下では年々地上茎が小さくなって
ゆくのが不思議だ.

茎にはたくさんの芽(休眠芽)が隠されているので,
茎をはさみで切って地面に巻いてやると,断片のそれぞれ
から新しい植物体が生じてくる.いわゆる捲きゴケという
増殖法.

| | コメント (0)

2008年4月12日 (土)

科学研究費採択される

研究分担者として参加している科学研究費の
申請が採択されたという知らせがさきほど
届いた.

基盤研究Bの海外調査として企画された研究計画で,
主な目的は森林構造の動態と変遷を調べることにある
のだが,着生植物についてもデータをとるために,
コケ屋としての参加求められていた.

うーむ,これから3年間,タイ北部の森の中で
着生のコケを調べることになるわけだが.嬉しいやら,
はたして体力が持つのか心配になるやら.

着生する植物には,自分の専門の蘚類だけでなく
苔類や地衣類も多いので,果たしてどれだけの
貢献ができるのか,ちょっと心許ない部分もある.

自分は木には登れないので,もっぱら採集された
コケの同定にまわることになるのだろう.
植物生態屋さんは,分類屋と違って体力があるから,
圧倒されないようにしなければ.

マレーシアやインドネシアでは食べ物に苦労したが,
タイでは何を食べてもうまいのが救いかもしれない.(^_^;)

| | コメント (0)

2008年4月 2日 (水)

刑務所で苔を栽培

とあるメーリングリストで流れた情報を紹介します.

北米では,年間3700万キログラム(乾燥重量)もの
苔が商業的に採取・利用されているとのこと.
ただ,苔は生長が遅いので,収穫・採集によって裸地が
生じて,それが森林の荒廃を招く結果となることが憂慮
されている.

そこで,苔を商業的に栽培するのが重要なのだが,
その一つの方法として,刑務所での栽培が試みられている
らしい.

興味を持たれた方は,以下の報告をみてください.
英文ですが,ヤフー翻訳を利用することで,おおよその
意味はとれる日本語に変換することができます.

http://academic.evergreen.edu/n/nadkarnn/cv/pdfs_new/moss_prison_2005.pdf
http://academic.evergreen.edu/n/nadkarnn/moss-in-prison.pdf

| | コメント (0)

2008年3月10日 (月)

スパニッシュモス

Dsc01555

スパニッシュモス(Spanish moss 学名Tillandsia usneoides) は,日本では温室でよく見かける,コケのような,あるいはサルオガセのような,木から長くぶら下がっている植物です.花をつけますからもちろん隠花植物ではなく,パイナップル科の仲間です.大気の水分だけで生育できる乾燥に強い,室内でも机の上に転がしておくだけで花や実をつけることができる,いわゆるエアープランツの代表です.
(自分でも何種か買って育てたことがありますが,確かにほっておいても花をつけました)

パイナップル科には色の鮮やかなさまざまな園芸植物が知られていて,今回訪れたシンガポール植物園やチェンマイのシリキット王妃植物園にも,これだけをまとめて展示した温室がありました.

ちなみにスパニッシュモスは,アメリカ南部を象徴する植物の一つなんだそうです.
http://southcarolina.seesaa.net/archives/200703-1.html

| | コメント (0)

コケの水草屋(シンガポール)

Dsc01606

シンガポールでは,苔の水草を扱っている店を四軒廻りましたが,お店で栽培までやっているところは一箇所だけでした.(郊外の別の場所で大規模に栽培している店も他にあるとのことですが,そこには今回は行けませんでした).

上の写真はそのお店の外観.群がっている人たちは,今回の絶滅危惧蘚苔類選定会議の出席者です.コケ屋さんにとってもあまり目にすることのない機会ですから,皆さん熱心に見いっています.もともとは業務用冷凍機などを扱っていたお店が,今では水草屋さんになっているようで,看板は昔のままです.

Dsc01612

店内ではいくつもの大型水槽で苔を育成し,同時に展示販売しています.フクロハイゴケ属やキャラハゴケ属,そしてホウオウゴケ属のFissidens fontanus(アメリカ原産),あるいは苔類のヤワラゼニゴケやシダ前葉体の一種がたくさん育っていました.いまやジャワモス(ミズキャラハゴケ)やリシアといったありふれた種類は値段が安くなりすぎていて,扱っていないとのこと.その店だけしか在庫のない見栄えのする種類をもっていることが,店が繁盛するためのコツなのだそうです.(もっとも,育成する技術を持っていれば,少量のサンプルを入手しさえすれば自分で増やすことができるわけで,確かめたわけではありませんが,自ら水草として確立させたわけではないのかもしれません.)

前にも書きましたが,3月25日に発売される「アクアプランツ No.5」に,苔の水草の小特集が掲載されます.すべてシンガポールの輸出業者から日本に持ち込まれた種類で,これまで国内ではあまり知られていなかったものばかりなのですが,上の店にはそのほとんどが売られていました.

| | コメント (0)

2008年2月15日 (金)

ハリガネゴケ属植物 とりあえずの結論

おととい写真を載せたハリガネゴケ属(Bryum)植物.名前が分からなかったのですが,とりあえず以下のような結論をだしました.

無性芽(bulbil)が各葉腋に一個ずつで,仮根から生じるgemmaeは持たない,
葉形と葉細胞の形(舷は弱い,基部は下垂しない,葉縁の反曲は弱いか反曲しない)
葉は乾燥しても葉が巻縮しない
といった形質に着目すると,Bryum bicolor(和名なし)とそれに近縁ないくつかの種からなる種群中に含まれるものではないかと考えるようになりました.
(おそらくBryum mayebaraeもこの種群中に含まれるのでしょう.もっとも原記載ではは無性芽に言及していません.)

B. bicolorは,葉細胞がこの属にしてはやや細長く,また舷の発達の程度にはかなりばらつきがあるのだそうです.中肋は少し葉先からでます.
ただ,葉縁の反曲はほとんどなく,仮根は平滑~ややパピラを持つ程度ということなので,これらの点では,私が採集したもの(反曲の程度は強くないが安定している:仮根には密にパピラを生じる)とは少し異なりますが.

以下にあげた参考文献(Vanderpoorten & Zartman 2002)によると,葉腋に各一個のbulbilをもつのは,北半球ではB. bicolorしかないと書かれていました.この文献には本種の図が掲載されています.

残念ながら日本のBryum属をまとめたOchi(1958)やNoguchi & Iwatsuki (1988),そのほかの日本の文献では,本種が無性芽をもつことは触れられていません.

またOchi(1958)では,B.bicolorは日本では稀と書かれていますが,もし今回採集したのがB.bicolorであるならば,生育場所から判断してごく普通にあるのではないかと思えます.ということは,さらに想像をたくましくするならば,日本の植物で他の学名のもとに報告されているもの(たとえばBryum mayebarae)が,実はB.bicolorと同じである,そういった可能性があるのではと思えます.

もっとも,ヨーロッパの種とアジアの種を,形が似ているからといってむやみに同種にするのは考えものですが,,,,

いずれにしろ,たくさんの標本を実際に検討してみないことには,これ以上先に進めそうにありません.

参考文献
Vanderpoorten & Zartman  2002  The Bryum bicolor complex in North America.  Bryologist 105 (1): 128-139. 
 以下のサイトでアブストラクトが見られます.
http://www.bioone.org/archive/0007-2745/105/1/pdf/i0007-2745-105-1-128.pdf

BGIFポータルでのBryum bicolorの標本分布図(アジアはすごく少ない)
http://data.gbif.org/species/14180167

| | コメント (0)

2008年2月13日 (水)

bulbilを持つBryum属の写真

Dscn1864 植物体

Photo 葉縁

Photo_2 葉基部

Photo_3 葉形

| | コメント (0)

2008年2月 6日 (水)

図鑑を使いこなす

書きかけのまま,すっかりアップするのを忘れてました.
といっても,他のところで書いた文章なのですが.

「図鑑を使いこなす」

 野外にでかけて苔を観察するにあたって,あるいは標本として家に持ち帰った苔を調べるときに役立つのが図鑑です.図鑑には写真や図とともに,記載といってそれぞれの種の特徴を列記した文章が掲載されています.この記載がなかなかくせ者で,慣れないと書いてあることの意味がわからず近寄りがたい感じがするものです.私もそうでした.普段使わないような用語がたくさん出てきたりもします.わからない言葉がいくつもでてくると,だいたいそれだけでいやになるものです.ここでは,わかりやすい図鑑の利用法をとりあげることにします.
 まず大切なことは,自分の力量に合った図鑑を選ぶことです.はじめたばかりのときに,分厚い図鑑で調べるのはちょっと無謀です.そして,絵や写真がたくさん入っているものを選ぶことです.最近は図鑑に掲載できるほど正確な植物図を専門に書ける人が減りましたので,どうしても写真を使った図鑑が多く出版されています.写真は見栄えが良いですし,たしかに生きているときの姿を映しだしてくれるのですが,問題は自然の中に生えている個体は,たとえそれが同じ種であっても,年齢や生育環境,ときには遺伝的な違いなどによって実に様々な形をしていることです.これは人間の場合を考えてみればすぐわかります.私たち人間は同じヒトという一つの種なのですが,蒙古系やポリネシア系,アフリカ系,コーカサス系など地域によって外見はとても違います.また性別によっても見かけはずいぶん異なりますし,赤ちゃん,子供,成人,老人といった発達段階でも違ってきます.同じことが苔でもそれぞれの種に当てはまるわけですから,図鑑に一つだけ掲載されている写真が,たまたま自分の手元にある植物とうまく合致してくれればいいのですが,そうでないことが往々にして生じます.「絵合わせ」といって,手元の植物と写真を一つずつ見比べて名前を決めるやり方がありますが,なんどやってもこの方法でうまくいかないことがあることはどなたも経験されたことだと思います.この点では絵のほうが,写真よりもすぐれていると言えます.植物の絵をかくときは,一つの個体だけをモデルにするのではなく,いくつもの標本や実物を観察して一番よく特徴を表している姿を合わせて描き出すからです(そのため,ときどきおかしな間違いもあるのですが).植物図鑑の絵を見て,かならず一枚は葉が裏向きなって描かれているのに気がついている方もおられるでしょう.これも一枚の絵で,なるべくたくさんの情報を伝えるための手段なのです.
 これまで苔の図鑑は専門家向けか,ごく初心者向けのものしかありませんでしたが,ここ数年使いやすい図鑑類が出版されました.そのいくつかを紹介します.

「原色日本蘚苔類図鑑」 岩月善之助・水谷正美著 1972  保育社
 苔をまなぶ上でもっとも使いやすい図鑑です.写真ではなく絵が描かれています.
はじめの部分に絵がまとめられていますから,絵合わせで名前を決めるときに便利です.出版されてから年月がたってしまいましたので,使われている学名が古いものが少なくないこと,扱われているのが日本産の種の半分以下であることなどの短所もありますが,普段使う分にはまったく問題ありません.私が一番よく使うのもこの図鑑です.

「日本の野生植物 コケ」 岩月善之助(編)2001  平凡社
 写真の美しさが特筆すべき図鑑です.眺めているだけでも楽しくなります.出版時点で国内から報告されているすべての種を扱っています.しかし,予算の関係もあって仕方がないのかもしれませんが,一冊にすべてを詰め込むのは無理があったようです.すべての種をあつかうと言っても,珍しいものや分布の限られるものは,検索表で触れられているだけです.細かい特徴が描かれた線画が少ない点ももの足りないと感じるところです.値段が高いこと,重くて大きいので野外には持ち出しにくいこともあって,なかなか人には勧められませんが,これから先長く苔とつきあおうという人には必携の図鑑です.

「フィールド図鑑 こけ」 井上浩 1986  東海大学出版会
「山渓フィールドブックス14 しだ・こけ」 岩月善之助・伊沢正名 1996 山と渓谷社

 ともに携帯サイズの図鑑です.野外にもってでかけるのであれば,どちらかを勧めます.後者は苔だけでなくシダや地衣類も掲載されているのでちょっとお得です.
「野外観察ハンドブック 校庭のコケ」 中村俊彦・古木達郎・原田浩 2002  全国農村教育協会
 私たちが普段接する機会の多い市街地や里山の種類を中心に掲載した図鑑です.解説記事も,標本の作り方や観察方法が書かれていて読みごたえがあります.蘚苔類だけでなく地衣類にもたくさんのページを割いているのが特徴的です.環境教育など学校の授業に使うことが想定されている構成になっています.

 さて写真や絵の豊富な図鑑を手に入れたなら,毎日少しの時間でよいですから,たとえば毎晩寝る前の五分ずつというように,実際にページをめくって見てください.そのときただ漫然と眺めるのも良いのですが,できれば気になったものだけでもよいのですから実物を見てみたいなぁと思ってみてください.べつに超能力を期待するわけではなく,私の経験から,会いたいなぁと強く思っていると,不思議と会えるものなのです.「噂をすれば影」というわけではなく,きっと意識のどこかに思いが残っていて,野外観察の際に見逃すことが無くなるからだと思います(視界に入って確かに網膜にはその映像が映し出されているはずなのに,気づかずに見逃してしまうことは,実際とても頻繁に起こっていることなのです.松茸山で足下の松茸に気づかない,といえばわかりやすいでしょうか).
 図鑑を有効に使う上で次に大切なのことは,絵合わせでこれだと決めた後,その種の記載文をしっかりと読むことです.博物館のセミナーなどで苔の観察会をすると,せっかく図鑑を持ってきているのに写真や絵だけ見て満足し,ほとんど記載を読まない人が多いことに驚かされます.自分でこれだと納得してしまったら,それ以上調べるのがめんどうくさいのでしょうか.でも記載文はそれぞれの専門家が知恵を絞って,その種の特徴を書いていますから,参考になることがたくさん書かれているのです.ですから記載文をしっかり読むかどうかで,これからさきその苔に詳しくなれるかどうかが決まるといっても過言ではありません.
 記載文を読む上で注意することは,手元に調べたい苔がない状態で読まないことです.いきなり本文を読み出しても,眠くなるばかりです.図鑑の記載というのは調べるために読むもので,読み物としてはあまりおもしろいものではないからです.

| | コメント (0)

2008年2月 2日 (土)

分子系統学が明らかにしたコケ植物の系統

10年ほど前,まだ意気軒昂としていた頃に書いた原稿.

ただ,すでに書かれた内容は古くなっています.

分子系統学が明らかにしたコケ植物の系統

 ここ十年の間に,DNAの塩基配列を直接比較することで系統を明らかにする学問,つまり分子系統学がすさまじい勢いで発展してきている.続々と明らかにされてきている新知見の中には,コケ植物というものに慣れ親しんできた私たちにとっては,にわかには信じがたい奇妙な結果を導き出したものも見られる.専門家でない著者にはその全てを消化することはできないが,せめてそういった最近の研究結果を簡単にまとめることで,今後私たちが研究を続けていく上で,なにか参考になることを得られればと考えている.

1.分子系統学について

1ー1.分子系統学と比較形態学

 生物の体の構造や機能は,様々なタンパク質やRNAによってつかさどられている.これら生体高分子の設計図ともいえるものが遺伝子である.遺伝子は染色体,つまりDNAの中に埋め込まれている.DNAはアデニン,グアニン,シトシン,チミンという4種類の塩基が非常に長く連なってできており,意味を持つ部分(遺伝子)と持たない部分(偽遺伝子や遺伝子間領域など)から成り立っている.このDNA塩基配列には,その生物がたどってきた進化の道筋の痕跡が,突然変異という形で刻み込まれている.この塩基配列の変異そのものを読みとることで,生物の歴史を明らかにしようとするのが分子系統学である.比較形態学にもとづいたこれまでの系統学と分子系統学との違いは,建築にたとえるならば,建物の設計図を直接に検討することと,設計図をもとにして完成された建築物を検討することに相当する.しかしながら設計と施工にはずれがあることも稀ではないように,このどちらを調べるのが適当なのかは,一概に決めつけることはできない.

1ー2.分子系統学における相同性の判別

 分子系統学の最大の利点は,比較する形質同士の相同性がほとんどの場合明らかだという点にある.一般に生物の形や機能には,生存に直結する適応的な意義があると考えられる.適応的な形態や機能は,その生物が生息する環境と密接な関係があり,似たような環境に生育する生物では,相似た形態や機能を進化させることがよく知られている(相似や平行進化).系統学ではこういった系統を反映していないものから,ほんとうに系統を反映しているもの,つまり相同を識別することがもっとも大切な作業である.系統の離れた生物を形態形質を使って比較する場合,相同な形質でさえも見かけがずいぶんと異なっていることが少なくない.また逆に相同でない形質が似通っていて,判断を誤る危険性も少なくない.分子系統学では,同一の遺伝子の塩基配列を調べるので,この点での難しさが大幅に少なくなっている(生体にとって大量に必要なタンパク質の遺伝子,あるいは核DNA中の遺伝子の中には,たくさんの重複を起こしているものがあり,その場合は相同性を確かめるのが困難になる).近縁な種同士を比較する場合には,比較形態学でも相同を検出することがそれほど困難ではないだろう.しかし,系統が離れるに従って困難は増加し,科や目のレベルになるともはや分子系統学が大きく勝っていると言えるだろう.

1ー3 分子系統におけるデータ評価

 分子系統学では,実験によって得られたデータを使って分岐図を求めるのだが,この分岐図が客観的なしろものであるかか否かは,実は議論の分かれるところだ.DNA塩基配列を解読して得られたデータそのものは,確かにある程度客観的と言えるのだが,このデータを使って分岐図を作成する際には,様々な「解釈」や作業仮説が入り込んでくる.そのため,ある一組のデータから一義的に結果が得られるというものではない.データを分岐図に翻訳するまでには,塩基配列のアラインメントをどうするかや,違いを評価する方法に何を採用するか(最大節約法,最尢法等)など,どの手法を使うかを各自が判断しなければならず,この選択によって最終的な結果が異なってしまうことも稀ではない.この点では,形質評価という問題点を抱えている比較形態学と,同じようなものでしかないともいえよう.系統学にとって,DNA塩基配列の解明が持つ意味とは,相同性が明らかなデータを大量かつ効率的に集める手段なのだと考えればよい.実験操作にしろ,データの解析にしろ,さまざまなテクニックが駆使されるが,それは本質の部分ではない.逆に言えば,すでに方法論が確立しており,入門書も教科書もできあがっており,かつそれほど特殊な技術を修得する必要がないテクニックとなっている.大量のデータが比較的容易に得られるということ,これこそがもっとも重要な点だと言える.

 ところでこれは余談だが,分類学には縁がないが,系統には興味があるという研究者が少なくない.分子生物学者によくあるタイプだ.そしてこういった人々によって,分子系統学的手法を用いようとしないのは怠慢以外のないものでもないと主張されることがある.これは実に正しい意見である.私自身も,分子系統学的な手法は使っておらず,なぜやらないのかと問いつめられたならば,誰か他の人が実験して結果を出してくれるのを見守っているほうが楽だからという本音を吐かざるを得ない.

2.コケ植物の分子系統学

 以下では,これまでに出版された,コケに関係する分子系統学の論文から,興味深い結果について紹介してみたい.ただし,この分野は現在も動きが激しく,最新の結果は論文ではなく,学会発表や電子メールの形で流通しているので,かなりの見落としがあるかもしれないことを,あらかじめお断りしておきたい.

2ー1. コケ植物は単系統群か,あるいは多系統群か? 分岐学(クラディスティックス;詳しいことは ワイリー著「系統分類学」,文一総合出版,1991年などを参考)の発展により,データから論理的に分岐図を構築する理論が確立したといえる.また細胞の微小構造など,これまでにないあたらしい種類のデータが蓄積されるようになってきた.その結果,形態や世代交代の特徴が共通しているよくまとまった系統群であるとみなされるとともに,もっとも原始的な陸上植物であると考えられてきたコケ植物が,実はいくつかの系統群の寄せ集めではないかということが示唆されるようになってきた(具体的な研究例としては,Carothers & Duckett 1980, Duckett et al. 1982, Melkonian 1982, Sluiman 1985, Bremer 1985, Mishler & Churchill 1984, 1985, Bremer et al., 1987, Duckett & Renzaglia 1988, Graham et al., 1991, Renzaglia et al. 1994, Mishler et al. 1994などを参照).新しい考え方をまとめると,次のような内包図で示すことができる;{タイ類{ツノゴケ類{セン類+維管束植物}}}.つまり,蘚類と維管束植物(シダ類,裸子植物,被子植物)が姉妹群であり,それにツノゴケ類が結びつき,これら全部に対してタイ類が姉妹群となるというものである.要約すると,センタイ類が単系統群ではないことを示しているのであって,これは我々にとってかなり衝撃的な主張である.系統学の分野においては,すでにコケ植物の単系統性は大きく揺らいでいるのだといえる.

 ところがこれらの論文をよく読んでみると,セン類と維管束植物を姉妹群とする根拠は,実はたった3つの形質にもとづくものであることがわかる(もっとも大系統群を結びつける共通の形質が少数であるのは普通のことだから,問題となるのはそれらの形質が信頼に値するものかどうかということになるのだが).スギゴケの仲間(およびマゴケ類の一部)では,配偶体の中心束には維管束植物の管状組織に酷似したハイドロイド,レプトイドが備わっている.この通道組織を形づくる細胞群の中に仮導管細胞や師管細胞に似た形態を示す細胞が見つかっているのだが,これが指摘されている第一の形質である.第二の形質はセン類の胞子体が直立することであり,第三は胞子がペリンによって覆われていることである.スギゴケ類以外の蘚類の中心束からは,これほど仮導管細胞に似た細胞は見つかっていないし,さらにこの細胞にはリグニンがなく,すなわち木化していない.さらにセン類配偶体と維管束植物胞子体を単純に比較することにも問題がある(さく柄に管状組織が分化しているという報告もある).胞子体が直立するという性質そのものが,それほど重要な形質だとは私には考えられない.かえってツノゴケ類にみられるような(頂端ではなく介在成長ではあるが)永続性のある胞子体というものを評価しても良いのかもしれない.ペリンについては,私の勉強不足でなんともいえない.精子微細構造だけに基づいて描かれた分岐図では,センタイ類の単系統群性が支持されていることは興味深い (Mishler et al. 1994).

2ー2.分子系統学による検証;どの遺伝子を調べるか

 形態形質の再評価,あるいは微細構造の解明により提唱された,分岐順序に関するこれらの対立する仮説を,形態形質とは独立した形質を用いて検証することに分子系統の特徴があり,またこのことが最も重要な課題であるといえる.

 分子系統と一口に言っても,実は知りたいことにより,調べるべき対象の遺伝子が異なってくる.目や科レベルでは,後述するようにrbcLといったような変化の速度の比較的速い遺伝子を用いるのだが,コケ植物の3大系統群の分岐という,遠い過去のことを調べるには,塩基配列の変化が少なく,結果として過去の変遷の痕跡をとどめている遺伝子を調べる必要があり,そのためにリボゾームRNAをコードする遺伝子が用いられている.植物の場合,細胞質にあるリボゾームと葉緑体のリボゾームは由来が違い,その構成も異なっている.細胞質のリボゾームをコードする遺伝子は核ゲノム上にあり,一方葉緑体のリボゾームをコードする遺伝子は葉緑体ゲノム上にある.これまでの研究では核ゲノム上にある18Sと26Sをコードする遺伝子(Waters et al. 1992, Mishler et al. 1994),あるいは葉緑体ゲノム上にある16Sと23Sの遺伝子(Mishler et al. 1992)が調べられている.

 塩基配列のデータからは,ツノゴケ類とセン類がひとまとまりとなり(=クレード),これが維管束植物に対する姉妹群であり,苔類がこれら全部に対する姉妹群となる (Waters et al.1992,図1:ただし,Waters et al. 1992のデータを異なる手法を用いて解析したMishler et al.1994によれば,タイ類は維管束植物の中に含まれてしまう!).一方Mishler et al. (1992)は,ツノゴケ類を検討の対象に加えていないが,同じようにセンタイ類が偽系統群であることが示されている.このように現在のところでは,提唱された分岐順序に関する仮説の可否が判断できるところまでは至っていないが,少なくともセンタイ類が単系統群でないことは支持されている.

 Waters et al. (1992)とMishler et al. (1994)はともに,対象としたセンタイ類種について,それぞれの遺伝子の全塩基配列を解明したわけでない.そのため形質の数としては充分ではなく,調べる塩基配列の数が多くなれば全く異なる結果が将来出てくることもあり得ることが予想されていた.またこれ以外に,塩基配列ではなく,共有する遺伝子の有無によって系統を論じている論文もある(Yoshinaga et al. 1992, 堀・吉永 1992).

2ー3.目,科,属レベルの系統関係について

 亜綱以下の系統関係がわかれば,科,属といった比較的下位の分類体系を見直すことができるようになる.属内部であれば,種間の近縁関係も明らかにすることができる.しかしながら,この分野でのコケ植物を対象とした研究は残念ながら立ち後れており,もっとも一般的な遺伝子であるrbcLに関するデータでさえ,いまだ充分に蓄積されていない(Mishlerたちの研究室では,すでに100種以上の種で解析を終えており,今年中には論文が出版される予定とのことである.)

 葉緑体ゲノム上にある16S,23SリボゾームRNA遺伝子を調べたMishler et al. (1992)は,調査対象をセン類の3つの亜綱から選択しており,その結果としてミズゴケ亜綱が,マゴケ亜綱,クロゴケ亜綱よりも先に分岐していることを示している(図2).最近その胞子体が発見され,タイ類からセン類にその所属が変更されたナンジャモンジャゴケに関しては,未だデータが出されていない.胞子体の裂開方法や造精器,粘液毛の構造が似通っていることから,現在はクロゴケ亜綱に近縁なものとして分類されているが,とりわけ早急な解明が望まれている.

2ー4.さらに驚くべき最新の結論,あるいは分子系統学の弱点

 ごく最近になって18SrRNAの全塩基配列にもとづいた分岐図が発表された(Capesius 1995, Krantz et al. 1995;図2).彼はこれまで調べられることのなかった茎葉状苔類,つまりクサリゴケ科の苔類についても研究対象としており,このことが全く衝撃的な結果をもたらしている.彼によると,タイ類のゼニゴケ類とクサリゴケ類とはまったく異なる系統群ということが示されている.またセン類も単系統群ではない.ゼニゴケ類とクサリゴケ類がかなり類縁の遠い群であることは,Schuster (1984)などによって従来から指摘されてはきたが,ツノゴケ類とクサリゴケ類が姉妹群となるなど,彼が示した分岐図はあまりに我々の感覚から隔たっており,直感的に受け入れがたい面がある.分子系統学が示した分岐図(系統樹)にもとづいて,形質進化の道筋などを探るのがこれからの比較形態学や分類学の役目の一つであることは確かであるが,彼の分岐図はこの役には立ちそうにもないといえよう.また彼の分岐図には維管束植物が含まれていないので,各グループごとの関係がはっきりとしていない点も残念である.さらに各枝にはブートストラップ確率,つまりは枝分かれの信頼の程度が付記されているが,この数字は多くの枝分けれの場所で小さすぎる.つまり,この分岐図をこれからの研究を進める上での作業仮説として受け入れるには,まだあまりに信頼性が低いといえる.ただしゼニゴケ類とクサリゴケ類が異なる系統群であることはほぼ間違いのない結論だろう.

3.最後に

 さて我々は,このような結論を受け入れることができるだろうか.コケ植物と日頃から濃厚な関わりを持つ中で培ってきた感覚と,これらの結論とは,私たちの感性と矛盾なく共存することができるだろうか.とても受け入れがたい,なにかのまちがいじゃないのか,というのが私の素直な本音だ.これからの展開を注目していきたい.

   本稿を書くにあたり,重要な文献について御教示くださった東大植物園の西山智明さんに感謝いたします.

用語の説明

単系統群:2種以上からなる自然分類群のこと.単一の祖先種に由来し,この祖先種から由来するすべての種を含むグループである.クレード(分岐群)とも呼ばれる.

多系統群:高次分類群のうち,単系統群でないもの,つまり非自然分類群.多くの場合,収斂的類似によって規定されている.他に側系統群という概念もあるが,ここでは触れない.

姉妹群:ある分類群に最も近縁な分類群のこと.姉妹群であることは,他のどんな分類群とも共有しない祖先種を,これら2つの分類群だけが共有することを意味している.共有派生形質によって判別される.

引用文献

Bremer, K. (1985). Summary of green plant phylo-  geny and classification.  Cladistics 1(4):369-  385.

Bremer, K., C. J. Humphries, B. D. Mishler & S. P. Churchill (1987). On cladistic relationships in green plants.  Taxon 36(2):339-349.

Capesius, I. (1995).  A Molecular Phylogeny of Bryophytes Based on the Nuclear encoded 18S rRNA GENES.  J. Plant. Physiol. 146:59-63.

Carothers, Z. B. & J. G. Duckett (1980). The bryophyte spermatozoid: a source of new phylogenetic information.  Bull. Torrey Bot. Club 107(3):281-297.

Duckett, J. G., Z. B. Carothers & C. C. J. Miller (1982). Comparative spermatology and bryophyte phylogeny.  J. Hattori Bot. Lab. 53:107-125.

Duckett, J. G. & K. S. Renzaglia (1988). Cell and molecular biology of bryophytes: ultimate limits to the resolution of phylogenetic problems.  Bot. J. Linn. Soc. 98:225-246.

Graham, L. E., C. F. Delwiche & B. D. Mishler  (1991). Phylogenetic connections between the 'green algae' and the 'bryophytes'.  Advances in Bryol. 4:213-244.

堀寛・吉永光一  (1992). 陸上植物の分子進化系統樹ーよみがえるコケの退行進化説ー遺伝 46(6):18-23.

Krantz,H. D., D. Milks, M. Siegler, I. Capesius,  C. W. Sensen, V. A. R. Huss (1995). The origin of land plants: Phylogenetic relationships among charophytes, Bryophytes, and Vascular Plants inferred from complete small-subunitribosomal RNA gene sequences.  J. Mol. Evol. 41:74-84.

Melkonian, M. (1982). Structural and evolutionary aspects of the flagellar apparatus in green algae and land plants.  Taxon 21(2):255-265.

Mishler, B. D. & S. P. Churchill (1984). A cladistic approach to the phylogeny of the

"Bryophytes".  Brittonia 36(4):406-424.

Mishler, B. D. & S. P. Churchill. (1985).  Transition to a land flora: Phylogenetic

relationships of the green algae and bryophytes.  Cladistics 1(4):305-328.

Mishler, B. D., P. H. Tharall, J. S. Hopple Jr.,E. De Luna & R. V. Vilgalys (1992). A molecular approach to the phylogeny of bryophytes: Cladistic analysis of chloroplast-encoded 16S and 23S ribosomal RNA genes  Bryologist 95(2): 172-180.   

Mishler, B. D., L. A. Lewis, M. A. Buchheim, K. S. Renzaglia, D. J. Garbary, C. F. Delwiche, F.

W. Zechman, T. S. Kantz & R. L. Chapman (1994). Phylogenetic relationships of the "Green Algae" and "Bryophytes".  Ann. Missouri Bot. Garden 81:451-483.

Renzaglia K. S., R. C. Brown, B. E. Lemmon, J. G. Duckett & R. Ligrone (1994). Occurrence and phylogenetic significance of monoplastidic meiosis in liverworts.  Canad. J. Bot. 72:65-72.

Schuster, R. M. (1984). Evolution, phylogeny and classification of the Hepaticae.  In.

Schuster, R. M. (ed.) New manual of bryology,  vol.2, pp.892-1070.

Sluiman, H. J. (1985). A cladistic evaluation of the lower and higher green plants (Viridiplantae).  Pl. Syst. Evol. 149:217-232.

Waters, D. A., M. A. Buchheim, R. A. Dewey & R. L. Chapman (1992). Preliminary inferences of the Phylogeny of bryophytes from nuclear encoded ribosomal RNA sequences.  Amer. J. Bot.  79(4):459-466.

Yoshinaga, K., Y. Kubota, T. Ishii & K. Wada (1992). Nucleotide sequence of atpB, rbcL, trnR, dedB and psaI chloroplast genes from a fern Angiopteris lygodiifolia: a possible emergence of Spermatophyta lineage before the separation of Bryophyta and Pteridophyta.  Plant Mol. Biol. 18:79-82.

| | コメント (1)

Leicaの使いやすい実体顕微鏡

Leicaから新しく発売されている実体顕微鏡の
デモを見る機会がありましたので,情報としてお知らせします.
軽くて照明付きなので使いやすそうです.

ライカEシリーズ実体顕微鏡
接眼レンズはx10,視野は20mm.
倍率は,x10x20の切り替え式です.
接眼レンズは直づけになっていています.

一番の利点は,明るいレンズと,LED照明が内臓されていることでしょうか.
重量も結構軽いです.
LED照明はやや白っぽいのが特徴ですが,なれると違和感はあまりありません.
なにより球切れがないというのがいいです.

それと,値段が定価98000円というのもライカにしては安く,魅力的ですね.

大学や博物館の実習用として納入されることが多いとのこと.

ズーム(x8~x35)も有りますが,値段は178000円.こちらは接眼レンズ取り外し式で,
その関係で視度補正ができます.

詳しくは,
http://www.leica-microsystems.co.jp/website/su_jp.nsf?opendatabase&path=/Website/Products.nsf/(ALLIDs)/286C6749482E7644492571C6001C4E4D

| | コメント (0)

2008年1月30日 (水)

コケにも帰化植物がある

P1020962

ミカヅキゼニゴケ (ミカヅキゼニゴケ科)

ミカヅキゼニゴケは、ゼニゴケ属の仲間によく似た形をしているが、無性芽をつける容器(無性芽器)が、三日月状をしている点で、ゼニゴケ属(無性芽器がコップ状)と違っている。植物体の大きさもずっと小さいことが多い。地中海地方が原産地で、日本にはおよそ90年くらいまえに入ってきたと考えられている。コケ植物では珍しい帰化植物なのだ。

ミカヅキゼニゴケは人里近く、植え込みなどの土の上に生えていることが多く、それがいかにも帰化植物らしい。

本当のゼニゴケは教科書に苔類の代表として掲載されていたのだが、関西ではあまり多くの場所では見られない。どちらかというと、出会うことの少ない珍しい種類にはいるかもしれない。ゼニゴケは葉状体の裏側が緑色をしているのだが、裏が紫色になるフタバネゼニゴケの方がずっと普通にある。雌器托をつけると両者の違いはより一層はっきりしていて、フタバネゼニゴケの方は、「フタバネ」の名のごとく、腕のうちの二本がほかのものよりも長くて大きい。

| | コメント (0)

2008年1月17日 (木)

コケの精子が空中を舞う

昨年6月11日に、ジャゴケ(苔類)の精子は、空中高く噴出されることを書きました。これを見つけた人がそのビデオ映像をYoutubeに掲載しています。

http://jp.youtube.com/watch?v=ALGDLzWcvnU

ははは、見事なもんですね。多連装ロケットランチャーから、次々と発射される感じ? 
アイスホッケーのパックの形をした一つの造精器床には、何十もの造精器が収められているので、何度も噴出できるのです。

これだけ飛べば、雄と雌が離れていても、無事精子と卵が出会うことができそうです。

えーと、ついでにこれも。イチョウやソテツの精子の動画のあとに、(細胞性?)粘菌の細胞が集合して分化してゆく様子がなまなましくとらえられています。

http://jp.youtube.com/watch?v=9OVeE-28RyA&feature=related

| | コメント (0)

2007年12月23日 (日)

苔にも斑入りの葉があるの?

とあるMLでのコケの葉についての質問と,それに対する私が書いた回答です.

質問:異形葉のコケ、複葉のコケ、ふ入りのコケというのはありますでしょうか。

回答:どなたからも回答がないようなので、詳しくはないですが、知っていることで返事を書きます。間違っているかもしれません。

 異型葉は少なくとも蘚類では一般的です。
 主軸から枝ができるとき、枝原基は一般的に保護的構造物で覆われています。これには毛(trichomes)に相当するものと、明らかに3列葉序を示す葉的なものとがあります。前者は毛葉と呼ばれ,表皮細胞から生じており,明らかに毛です.後者は葉序が観察されるので、高等植物の鱗片に相当する「葉」であると考えられます。一般的には偽毛葉と総称されます。
 この偽毛葉が通常の枝につく葉とはかなり異なる形態を示します。私自身も異時性と形態進化の関連で興味があって調べていますが、葉の形態と進化に関しては、(ちょっとホラ吹き的な論文ではありますが、下記のものを参照されると良いかと思います。
  Brent, D. Mishler & Efrain, De Luna 1991. The use of ontogenetic data in phylogenetic analyses of mosses.. Advances in Bryology 4:121-167.
   Brent, D. Mishler. 1986. Ontogeny and phylogeny in Tortula (Musci: Pottiaceae). Systematic Botany 11(1):189-208.

 クジャクゴケ科、ホゴケ属や苔類では、茎の横につく二列の葉と、腹側(あるいは背中側)の1列(あるいはそれ以上)の葉とではおおきさ、形が違います。

 複葉のコケの葉は、あるともないとも言えます。
 日本にあるものでは、ヒカリゴケの配偶体の葉が複葉的です(保育社の図鑑を見て下さい)。
 複葉ではないですが、一般にスギゴケ科の葉は、ラメラとよばれる板状の構造が中肋や葉面の上に生じていて、複雑な構造になっています。
 ホウオウゴケ属の葉は、腹側の部分で2枚に分かれています。不思議です。
 シノブゴケ属などに見られる「毛葉」は一般に複雑に分枝していますが、これは葉ではなくて前述のように茎の表皮細胞から不定的に生じる「毛」です。

 斑入りの葉は聞いたことがありません(もしかしたら葉状の苔類にはあるのかもしれませんが,平べったい部分は葉ではなく茎に相当しますから,すこし話が違います)。しかしながら、一枚の葉を構成する細胞が,葉緑体を含む緑色細胞と、貯蔵を専門とする透明細胞とに分化していることはごく一般的です。
 シラガゴケ属やミズゴケ属のように、透明細胞と緑色細胞とが順序良く配列しているものや、PottiaceaeやCalymperaceaeのように、葉の基部には透明細胞が、上部には緑色細胞というように位置で分かれているものがあります。

| | コメント (0)

2007年12月19日 (水)

特徴による蘚類同定の手引き

これも10年以上前に,同好会の出している雑誌に書いたものです.長いので,前半だけ転載します.
ところどころインデントが狂っているのは,ご愛敬ということで,,,


 私が蘚類の勉強を始めた頃、採集してきた標本がいったい何の仲間に当たるのかを調べる際に重宝したのが野口彰著「日本産蘚類概説」である。その中でも特に日本産蘚類の類別という章は、ある特徴をもつコケがどの仲間に多いかをまとめてあるので、手元にある科も属も不明の標本を同定する時にはとても便利なものであった。一般に植物の同定においては、属(ときには科)が判明さえすれば後はなんとか調べる意欲が湧くものである。反対に属も科も不明の時には、図鑑のページを初めから繰っていく以外に手がなく、途方に暮れて投げだしてしまうことになりやすい。その意味で野口の「類別」は良い導き手となってくれるありがたいものである。
 しかしながらこの「類別」は一つの形質でしか検索できないことが玉に傷で、属や科の大まかな特徴が十分に捉えきれていない初学者にはやや使いづらいところがある。そこでこの「類別」を使いやすく、かつ抜けているいくつかの点をおぎなって書き改めたのがい以下のものである。人のふんどしで相撲をとるのは申し訳ないのだが、私自身ながく愛用しているということを釈明として許していただくことにしよう。
 なお蛇足を述べるならば、このような枚挙的リストをつくることができるのも、先人のプロ・アマ研究者による長年の努力の結果、日本の蘚類(もちろん苔類もだが)のフロラ、つまりどんな種・属・科が日本に存在しているかがほぼ完全に解明されているからだ。今後はこの日本の蘚類フロラをより完全なものにすることが大切なのだが、それとともに今まで形だけで識別されてきた種が、生物学的な意味において本当に種であるのかという点での研究が望まれる。例えばこれまでは変異の大きい種であると認識されていたものが、実はいくつかの種の複合体であるとか、逆にこれまでは地方ごとに少しずつ形が異なる一連の種群とされていたものが、生物学的な見地からは一つのまとまりであると考えた方が合理的である、といった研究である。この方面では新しい(そして往々にして多額の費用がかかる)手法を使った研究が最近ますます活発になってきている。しかしながら、たとえ用いる道具が顕微鏡と鉛筆だけであっても、型にはまらない柔軟な発想と手間をかけた丁寧な観察によって真に価値ある研究を行うことができる、またそうでなければ世の中おもしろくないと確信している。
 なおこの同定の手引きでは、属の所属・用いた和名は保育社「原色日本蘚苔類図鑑」に従っているが、これはただこの本の入手のしやすさを考慮したものである。ただスズゴケ属をイタチゴケ科に含めていること、およびアオハイゴケ属・オオミツヤゴケ属を認める点が異なっている。

1。特徴がはっきりしており、野外での識別が簡単な種類
 いざ蘚類を同定する場合、にっちもさっちも行かなくなることがある。例えば、検討中の標本が中肋は一本で長く、葉細胞は線形でパピラを持たないものであった場合、そのほとんどはアオギヌゴケ科である。そしてこの科はいまだ研究が進んでおらず(と言うよりあまりに面倒なので誰も手をつけない)、種を識別することさえが非常に難しい。またよく見かけるシッポゴケとカモジゴケのように、種ははっきりしているのだが、実際に同定する際には困難を感じることも多い。なぜこれらの群において種を識別することが困難なのかは、コケの側の生物学的事情や人間の側の認識メカニズムなどがからみあっていて、簡単にその原因を指摘することは難しい。
 だが植物の種の中には、人の目につきやすく、かつ特徴がはっきりしていて他との区別が容易なものがあるのも確かである。蘚類を同定する際には、そのいったはっきりした種類をあらかじめ取り分けておくとあとの作業が楽になる。以下のAからZは、特徴がはっきりしており野外での識別でさえ難しくない蘚類の見分け方の手引きである。これはコツのようなものであるから、私のもののとらえ方が如実に反映されており、そのためもしかすると他人には使い勝手の良くないものであるかもしれない。あるいは、自分は違った識別法を持っているということもあるに違いない。

A。植物体の色
  黒色あるいは赤っぽい黒色 
   乾いた岩上 
クロゴケ ギボウシゴケ クロカワキゴケ
   高山帯の雪渓脇の岩上 
    ガッサンクロゴケ
  白色ー白緑色
   林床 
    ホソバミズゴケ シラガゴケ属
   大型で基物からやや垂れる 
    オオシラガゴケ
   高山に群生 
    シモフリゴケ
   小型、土上、コンクリートの側溝などに多い 
    ギンゴケ
   低地、石垣上に多い
    ヒジキゴケ
   湿地・湿原
    細い紐状 
     チョウチンハリガネゴケ
    低地で大型 
     オオミズゴケ
    その他 
     ミズゴケ属一般
   林床の腐木上、中肋は不明瞭、葉先は細くとがる
葉細胞は線形 
     シロイチイゴケ
    植物体は糸くず状、葉細胞は長い楕円状ひし形 
     エダウロコゴケモドキ 
  春に鮮緑色若芽をつける 
   コバノチョウチンゴケ タマゴケ
  赤色がかる 
   林床 
    アカイチイゴケ
   渓流沿い 
    オオベニハイゴケ
   湿地 
    アカスジゴケ
   石灰岩地 
    オオフタゴゴケ
   小型、低地、赤みを帯びた朔柄や朔が目だつ 
    ヤノウエノアカゴケ ネジクチゴケ
  青緑色・青灰色 
   アオゴケ

B.火山地域の岩上に群生、植物体は偏平、葉は二列 
   エビゴケ

C.低地から山地の林床に群生、茎は高さ4ー5cm、葉は細く密生 
   ヒノキゴケ属 

D.地面に広がる緑色の肉眼ではっきりとわかる原糸体群から植物体が生じる 
   ハミズゴケ ヒメハミズゴケ ウチワチョウチンゴケ属

E.洞窟や暗いくぼみの中に生育、黄緑色の光を反射する 
   ヒカリゴケ 

F.大型でよく枝分かれし、山地の林床に群生、一見シダ類のよう 
   枝は細く多い、ふつう標高1000m以上 
    フジノマンネングサ
   枝は太く少ない(10数本)
    湿地 茎は乾いても上部直立 
     フロウソウ
    林床、茎は乾くと上部が弱く屈曲する、低山地の林床に群生 
     コウヤノマンネングサ

G.葉は茎に丸くつき、茎は明らかに細い円柱状 
   ネズミノオゴケ

H.畑や田圃の畦に多い 
   ハイゴケ コスギゴケ、ヒメスギゴケ

I.山道よこなどの土上に群生、春には球形の朔と鮮緑色の茎が目だつ 
   タマゴケ

J.低地・山地の乾いたスギ・ヒノキ林に多い
   白色 
    ホソバオキナゴケ
   スギの根元などに光沢のある平たいマットをつくる、翼細胞は一列 
    カガミゴケ
   土の上に平たいマットをつくる、しばしば赤みがかる 
    アカイチイゴケ
小型、茎直立、朔は円筒形 
    タチゴケ
   葉は楕円形で疎らに茎につく、這う茎が目だつ 
    ツルチョウチンゴケ
   スギの根元に群生
    植物体白緑色、茎の先に線形の無性芽を多数つける 
     シシゴケ
    植物体褐緑色、葉には明瞭な弦がある 
     カタシロゴケ
    植物体這いやや小型、偏平
     中肋なし 
      キャラハゴケ
     中肋あり 
      コカヤゴケ
    植物体這い、紐状、光沢ある 
     サナダゴケ
    
K.庭園によく植えられている
    植物体は白緑色 
     アラハシラガゴケ
    植物体は小型、春先に鮮やかな緑色をしめす 
     コバノチョウチンゴケ
    植物体10数cmの高さがある 
     植物体は直立する 
      オオスギゴケ
     植物体の下部は倒れて地面を這う 
      ウマスギゴケ

L.低地の沢沿い、日の当たる樹幹に多い
   スズゴケ トガリイタチゴケ エゾヒラゴケ、チャボヒラゴケ

M.風衝地あるいは山地の開けた陽地の樹木幹や枝に小さく密な群落をつくる 
   朔帽に多くの毛がある 
    カラフトキンモウゴケ
   朔帽の毛はないか少ない 
    エゾキンモウゴケ

N.山地渓流内の岩上や流水中
   茎は葉が落ちた後も軸だけが残る、中肋は一本で長い
    葉は円頭、葉頂に鋸歯なし、葉細胞は線形 
     アオハイゴケ
    葉は鋭頭ー鈍頭、葉頂に鋸歯ある、歯細胞は矩形 
     アサイトゴケ
    葉は二列で腹翼あり多細胞列、暗緑色、石灰岩地 
     ホソホウオウゴケ
    流水中に長い茎で漂う、黒色、中肋なし 
     クロカワゴケ
    
O.大型で美しい3回羽状分枝
   林床 
    トヤマシノブゴケ
   渓流沿い 
    ヒメシノブゴケ
   茎葉の先は針状に長く伸びない 
    オオシノブゴケ

P.都市部の街路樹などの幹(すべて小型種)
   中肋ないかあるいは短く叉状、翼細胞分化する 枝は細い糸状で群落は
  ビロード感あり     
    コモチイトゴケ 
   中肋は上部で蛇行、葉細胞は斜めに並ぶ 
    ラセンゴケ
   朔柄は鞘状の葉で覆われる、中肋は一本で長い、葉細胞は方形 
    サヤゴケ
   朔は薄いクリーム色で葉の間に沈生、葉先は針状にとがり、中肋なし 
    ヒナノハイゴケ
   中肋なし、葉細胞は紡錘形で膜上部に小さな突起あり、翼細胞は多数の 小型方形細胞からなる、茎はやや細い糸状でビロード感はない           

    イヌケゴケ
   深緑色、葉は卵形、中肋は長く葉先で突出する、葉細胞は薄膜大型 
    ホソウリゴケ
   中肋は一本で長い、葉細胞にパピラがある 
    コダマゴケ

Q.低地から山地の明るく開けた場所に大きな群落をつくる
   葉は鎌状に曲がる 
    ハイゴケ
   光沢が全くない、葉細胞には多くの高い乳頭状突起がある 
    スナゴケ ハイスナゴケ

R.葉は著しくくぼむ
   中肋は一本で長い 
    オオトラノオゴケ属 コクサゴケ属 トラノオゴケ属 イヌエボウシゴケ属
    ケサガリゴケ属 ネズミノオゴケ属 サナダゴケ属(マルフサゴケ) 
    イワダレゴケ属(フトリュウビゴケ)
   中肋は短く叉状
    葉細胞にパピラあり 
     レイシゴケ属 エダウロコゴケモドキ属
    葉細胞は平滑 
     ツヤゴケ属
   中肋は不明瞭、翼部がよく分化する 
    フクラゴケ属 ナワゴケ属 ミミゴケ属 カクレゴケ属

S.葉は二列、腹片をつくる(ホウオウゴケ属)
   大型
    葉縁は明るく縁どられ、二重鋸歯をもつ 
     トサカホウオウゴケ 
    葉縁は暗く縁どられる、渓流沿い 
     ホウオウゴケ
   中型
    乾くと著しく巻く、ふつう樹上 
     ヒメホウオウゴケ
    乾いてもさほど巻かない、土上 
     キャラボクゴケ コホウオウゴケ

T.木や岩から長く垂れ下がる 
   葉はやや偏平につき、葉細胞にパピラあり 
    ハイヒモゴケ科
   葉は強く偏平につき、はっきりした横シワあり 
    リボンゴケ属(リボンゴケをのぞく)

U.葉は重なって強く偏平、著しい光沢あり
   リボンゴケ属(リボンゴケ) タチヒラゴケ属 キダチヒラゴケ属 ヤマトヒラゴケ属

V.手で触ると茎の上部がポロポロと落ちる
   ヤマトフデゴケ ユミゴケ アオシッポゴケ(この種はユミゴケと混同されやすい)

W.葉が硬く折れやすいので、手で触ると葉裂片がつく 
   タカネカモジゴケ

X.針葉樹林帯のアオモリトドマツなどの幹に生える
   植物体は細く、幹から垂れ下がる 
    ミドリイヌエボウシゴケ ツルゴケ キツネゴケ
   幹に密な固まりをつくる 葉が折れやすい 
    タカネカモジゴケ

Y.林床の腐木などにマット状群落をつくる、長く赤い朔柄が目だつ 
   クサゴケ

Z.タンナサワフタギの幹に生える 
   イワイトゴケ属

| | コメント (0)

ウキゴケ,イチョウウキゴケ,オオミズゴケ

10年ほど前に書いた文章です.

湿地やため池の周辺には、そのような環境に適応した性質をもつコケが生育しています。このようなコケには多くの種類がありますが、ここではオオミズゴケ、ウキゴケそしてイチョウウキゴケの三種を取り上げます。これら三種の地域集団について、酵素多型という手法を用いてその遺伝的な構成を調べました。

オオミズゴケ
  水辺に生えるコケ類の中でも、ミズゴケ類はとりわけ特徴的なグループです。湿地(あるいは湿原)という環境そのものがミズゴケによってつくりだされ、維持されているともいえるからです。これは、ミズゴケの植物体がその体内に多量の水を保持できる構造をしているためです(以前はこの性質を利用して、脱脂綿の代わりに使われたこともありました)。また死んだミズゴケの体が腐りにくいことも重要です。遺骸が厚く堆積することにより、湿原が形成されるのです。
 ミズゴケの仲間は、日本からおよそ35種が見つかっていますが、六甲山周辺には、オオミズゴケ、ホソバミズゴケ、ハリミズゴケの三種が記録されています。オオミズゴケに較べてホソバミズゴケ、ハリミズゴケは生育場所が限られています。低地から高地にかけてもっとも普通にみられ、私たちが普通に目にするのはオオミズゴケです。オオミズゴケは、栄養分の乏しい酸性土壌であれば、山道ぞいの湿った地面や林床などにも見つかります。特に六甲山の周辺やその北部では、土壌条件が適合するのか、オオミズゴケが目立ちます。
 三田市北西部のため池の一つには、水が流れ込む上流側に湿地が発達しています。この湿地の大部分と周辺の林床は広い面積がオオミズゴケによって覆われています。オオミズゴケはほとんど有性生殖をおこなわず、従って胞子をつくることが稀です。繁殖に必要な胞子をつくらないオオミズゴケは、どのようしてこのように大きな群落を生みだし、また維持しているのでしょうか。
 酵素多型を使って集団の遺伝的変異を調べてみると、意外な事実が分かりました。この大集団は、調査した限りすべての個体が遺伝的に同一だったのです。このことは、この集団がもともとは一つの個体から出発したことを意味します。そればかりではなく、六甲周辺で見つけた10集団についても比較検討したところ、集団間にも遺伝的な差異は存在しませんでした。
 実は、予備的に他の県のオオミズゴケ集団とも比較したのですが、この場合にもごくわずかの違いしか見いだせませんでした。日本のオオミズゴケは、もしかするとそのすべてが1個体に由来したのかもしれません。他のミズゴケとは違って幅広い環境に適応したオオミズゴケが、それほど遠くない昔に急速に日本国中に広がっていったのではないでしょうか。

ウキゴケとイチョウウキゴケ

 イチョウウキゴケはイチョウの葉に似た形をしており、ため池や田圃の水面に、腹鱗片と呼ばれる紫色の器官を広げて浮かんでいることが多いコケです。田圃の水が抜かれると、土の上でも生活できます。また畑の土に生えている場合もまれではなく、この場合は一生を地面の上で生活します。土の上にはえるものと水面を漂うものとは、同じ種です。沖縄県から新潟県までのイチョウウキゴケを調べてみたところ、オオミズゴケと同じように、遺伝的にみて全く同一のものであることがわかりました。
 ウキゴケもまた水中あるいは水面で生活していますが、もっぱら湧き水のように冷たくて二酸化炭素が豊富にとけ込んだ水を好みます。ウキゴケも地面に生えている場合があります。とりわけ稲刈りがすんだ田圃の土の上には数多く見つかります。ところがイチョウウキゴケの場合とは違い、水中のもの(水生型)と地面のもの(陸生型)とでは、植物体の厚さや気孔の数などで、植物体の形が異なります。これらが別の種であるのか、あるいは同じ種が生育環境の違いに対応して変化したのかまだわかっていません。コケは体のつくりが単純で、似たものを区別することが難しいからです。
 酵素多型で調べたところ、日本には少なくとも7つの遺伝的に異なるタイプが存在することがわかりました。一つの集団は単一のタイプから成り立っています。また同一のタイプからなる集団が、地理的にまとまりをしめすことはなく、数百メートルしか離れていない場所に異なるタイプが分布することもまれではありません。タイプの違いと水生型と陸生型の違いとは関連してはいないようです。
 ウキゴケやイチョウウキゴケはともに、その生育環境から判断して、分布を広げる手段として水鳥による運搬が想定できます。胞子をほとんどつくらないことでも共通しています。似た生活をしていながら、なぜこのような違いがみられるか、これを明らかにしてゆくのも今後の課題です。
 同一のものが広く分布しているオオミズゴケとイチョウウキゴケ、それに対して様々なタイプがモザイク状に分布するウキゴケ。胞子をめったにつくらず栄養繁殖だけに依存したこれら3種のコケ類の集団の構造が、このように全く違っているのが、とても興味深いところです。

| | コメント (0)

2007年12月11日 (火)

他人の空似 コケの場合は,

コケ植物にはたくさんの種や属,科が知られている.倍数体以外に自然雑種がほとんどない分だけ,シダ植物や顕花植物といった2倍体が生活史で優占する維管束植物に較べ,コケ植物の多様化の方向は限られてしまうが,形態でのみ識別されている種の中には遺伝的には十分に別種として認めるべきものが多数含まれている可能性があり,全体としての多様性は決して小さいとはいえないだろう.

 この多様なコケ植物の中には,その見かけがお互いにとても良く似ている組み合わせが少なくない.なぜ見かけが似ているのかには,大まかにわけて二つの理由が考えられる.一つは両者が系統的に近縁なもの同士である場合で,似ているのはまさに血筋が近いからである(似たもの同士,あるいはうり二つ).血筋の近い種ではお互いの形が似ていることは,形態の比較に基づいて類縁関係を推定する一昔前の(もちろん現在でもかなり有効なのだが)系統分類学的手法を成立させていた根拠である.

 もう一つは,類似した生育環境への適応の結果として,系統的にはかけ離れていてもお互いの形態が酷似している場合である.「収斂」や「平行進化」として知られている現象がこれにあたり,「他人のそら似」とでも言うべきものだろう.他人のそら似には類縁性が関係ないため,ウツクシハネゴケ(苔類)とヒラゴケ科(蘚類)のように,ずいぶんと異なる系統群の間でも見かけが似ていることがある.もっと極端な場合としては,コケ植物以外のものと(たいていはシダ植物だが)似ていることさえある.その良い例が,クジャクゴケ属と小型のクラマゴケ属(シダ類),シシラン科の前葉体とクモノスゴケ属,ゼニゴケシダと小型葉状性苔類である.また,熱帯地域に多い小型のコケシノブ科植物は葉の細胞が一層となり,みかけがコケ植物とそっくりなことが多く,なれないうちはかなり惑わされる.

 以下にとりあげた例は,私自身がこれまで経験してきた中で似ていると感じたものである.「似ている」というのはあくまで主観的な印象であり,この印象というものは本人の能力,そしてこれまでに同定で迷った(あるいは恥ずかしい思いをした)個別の経験によって大きく左右される,きわめて個人的なものである.というわけで,保育社や平凡社の図鑑には数多くの例が記述されているが,自分で経験したもの以外はここでは取り上げなかった.周囲に教えを請う人がおらず,独学で図鑑と首っ引きで同定に苦労した経験のある人であれば,他にいくつも例を挙げることができるだろう.慣れてくると迷うことも少なくなるものなので,ここにとりあげた事例に賛同できない人もなかにはいるだろうが,自分が初心者であったときのことを思い出して寛容に評価していただければと思う.なかは筆者の全くの勘違い(覚え間違い)もあるかもしれない.ご指摘いただければ幸いである.また,どの点を私は似ていると感じたのかについては,あまり詳しく書いていない.これも似ていると感じるのは個人的なものと考えるからである.もし興味をもたれた例があれば,ぜひ図鑑等の記載や写真を見ながら推理していただければと思う.なお和名は「日本の野生植物コケ」(平凡社)に従っている.

 ところで,ミズゴケ属やサナダゴケ属,あるいはシッポゴケ属といったように,種内変異はそれほどでもないにもかかわらず,なぜか種の識別が難しい群がある.だからといって,属内の種の見かけがどれもみな似ているわけではなく,似ているのはその中の特定の組み合わせの場合に過ぎない.そして,特定の見分けの難しいケースを経験と学習で克服できれば,野外での鑑別力が著しく向上することまちがいなしのはずなのだが,自分の経験ではなかなかそうはならないものである.特定のコケ植物には,なにかしら生物学的な奥深さが存在しているような気がする.しかし,中には非常に優れた鑑別力を持つ人もいるので,もしかすると単なる記憶能力の善し悪しの問題なのかもしれない.ミズゴケ属に関しては,関西地方では分布する種が少なく同定に迷うほどの経験を積む機会が少ないので,個人的な問題なのだろう.

「他人のそら似」の例

スギゴケ属・ニワスギゴケ属とナンヨウスギゴケ属
 ナンヨウスギゴケ属は時に別の科に分類されることもあるが,葉にラメラ構造が発達するというきわめて特徴的な点で類似していることを考慮すると,スギゴケ科としてまとめるのが適当だろう(ラメラをもつ蘚類はセンボンゴケ科にも知られているし,葉状苔類の気室内には同化糸が林立していてこれも機能面からはラメラのようなものなのだが,スギゴケ類のようなしっかりとした板状構造にはなっていない).別の科に分類する根拠の一つは蒴歯の形態が全く異なることだが,解剖学的な研究によれば蒴歯のもととなる細胞群の配列構造は似ていて,細胞壁のどの部分が壊れて多細胞の蒴歯ができるかだけの違いであることが示されている.もっとも,これまでに東南アジアで生きている植物に接した限りでは,慣れるとスギゴケ科植物とナンヨウスギゴケ属とを混同することは無くなる.葉の色味が少し違っていて,ナンヨウスギゴケ属のほうが白っぽい緑色をしているので見分けがつくからだ.ただ,この色味の違いがすべての種に当てはまるかは確かめていない.

ハクチョウゴケ属とセンボンゴケ科
 なぜ私が選ばれたかは不明なのだが,とあるオランダ人研究者からセンボンゴケ科と思われる標本についての意見を求められたことがある.その標本はヘルシンキ大学にあるBrotherus博士コレクションに納められている日本産のもので,「私はこれを新種と考えているのだが日本人のおまえは見たことがあるか」というのが質問の内容であった.たまたまその数週間前に参加した野外観察会でヤマトハクチョウゴケを教えてもらっていて,頭の中にはその新鮮な印象が残っていたため,すぐに正体に気づくことができた.そうでなければ,彼と同じようにセンボンゴケ科と見誤り,さっぱりわからなかったはずである.このときは偶然と幸運に感謝したのだが,これまでに同定不能として放り出してきた数々の標本の数の多さを考えてみると,決して運の良い方ではなかったような気がする.
 
チヂレゴケとセンボンゴケ科
 まだ大学院生だったころ,日本蘚苔類学会の大会が兵庫県で開かれたことがある.六甲山の北面にある紅葉谷での採集会に先立ち,コケ植物リストづくりのために調査をおこなった.そのとき胞子体をつけていないセンボンゴケ科らしき蘚類が少なからず生育していることに気づいた.この調査の目的が観察会用リストづくりであり,そのためすべての種を網羅しなければならない.普段ならあまり採集意欲のわかないものについても採集せざるを得ず,持ち帰って確認したところセンボンゴケ科ではなくチヂレゴケであることがわかった.大会開催当日,採集会が行われた午後にあった同定会に,なんとこの植物が持ち込まれ,当時の先生方が「胞子体がないのでよくわからないが,おそらくセンボンゴケ科のものだろう」とおっしゃるそばから,チヂレゴケではないでしょうかと口を挟むことができたのは,まだ駆け出し当時の思い出である.

コツボゴケとタチゴケ
 コツボゴケは這い,タチゴケは立つコケなので,慣れると野外ではまず間違えることはないが,乾いた葉が縮巻する様子が似ているので,少量の植物体,それも匍匐する茎ではなく直立する茎しか標本袋に入っていない場合に,両者は混同されやすいと思う.顕微鏡で葉一枚だけをみると,より一層迷いやすく,コケ植物の勉強を初めてまだ1,2年目の頃はよく間違えていた.初心者が陥りやすい混同の一つではないだろうか.もちろん葉の縁にある鋸歯の様子,裏面上方に斜めに並ぶ顕著な細胞突起列に注目するとタチゴケであることはすぐわかるはずなのだが,それに気づかないから初学者なのだろう.

シシゴケとマユハケゴケ
 東京都日原にある石灰岩の岩峰で調査したとき,地面に小さなマットをつくっている蘚類を見つけた.短い茎の先端にはたくさんの無性芽が花のように集まっていたので,「シシゴケは杉の株元だけでなく,地面にもこんな群落をつくるのだなぁ」と納得しながら採集した.持ち帰って検鏡してみると,保育社図鑑には珍品とかかれているマユハケゴケであることがわかった.二つを並べてみるとたいして似てもいないのだが,無性芽だけを目印にしていたので間違えたのである.
 数年前のミャンマー調査でも似たような経験をした.現地ではカタシロゴケ属だと思い写真も撮らずになんとなく採集袋に入れたコケが,日本に持ち帰って調べてみるとキサゴゴケ属の新種とされるべきものだったのだ.現地で「駄もの」と思っても,念のために標本として持ち帰ることの重要性に,コケを初めて20年もたって改めて気づかされた.同じことは普通種にもいえる.海外調査で標本を採集する場合,同じだと思えたものは同じ場所ではそれほど何度も採ることはないのだが(場所が変わればもちろん採集する),これはという直感が働いた場合は,労をいとわずになんどでも採集しておくのが良い.もしかすると肉眼では識別しがたい,細かい形質で異なっている複数の種が混在しているのかもしれないからだ.あとから気づいてもう一度そこに戻る費用と時間を考えると,「ゲップがでるほど」同じものを採っておくのも場合によっては有効なことだろう(あまり採りすぎると運ぶ荷物が増えてしまい,同行者からは疎まれることになるのだが).もちろん一番良いのは,現場でしっかりと識別できることだ.ちなみに,どれだけの知識を持っているかで,野外調査で採集できる量と質に大きな個人差がでるのは,現場での識別能力に差に寄るところが大きい.一面の緑色の中から,ある特定の植物を選び出せるということは,経験と知識に裏打ちされたとても偉大な能力なのだと思う.

ギボウシゴケとチュウゴクネジクチゴケ
保育社の図鑑で大きく取り上げられているので,人里近くの明るくて乾いた岩の上に,黒茶色で背の低い群落をつくる蘚類があれば,疑いもなくギボウシゴケ属(あるいはシズミギボウシゴケ属)と考え,この属の同定は結構面倒くさいため,とりあえずギボウシゴケと名前をつけていた時期があった.しかし,広島大学の出口博則博士(当時は高知大学)から,「人里近い場所でコンクリート上などに生えるのはチュウゴクネジクチゴケなのだが,これをギボウシゴケと間違えている人が多い」という話を伺い,そのときは黙っていたのだが,ああ自分のことだと冷や汗をかいた.

フジノマンネングサとコウヤノマンネングサ
 枝分かれの様子と枝の細さが違うために,慣れてくるとそれほど似ているようには感じないが,初めのうちは非常に迷った経験がある.初学者にありがちなように,とりあえず顕微鏡で,葉や葉細胞の形,茎上に流れる「薄板」の有無などを調べると,かえって違いがよくわからなくなってしまうのだ.私がそうだったように区別が苦手だと思う方がおられたら,標本でも良いから二つを並べて較べてみるといい.絵や写真だけではなかなか実感できない両者の違いが飲み込めると思う.その後人に聞いたり,自分で確認したりした限りでは,フジノマンネングサの方が標高のより高い場所に生えるようで,おそらくこれは全国的な傾向なのだと思う(雲取山への登山道を歩くと,このことがよくわかる).判別の難しいコウヤノマンネングサとフロウソウの違いは,似たもの同士の項で触れる.

| | コメント (0)

2007年12月 6日 (木)

トナカイゴケ

トナカイが主食としているトナカイゴケ.
コケと名付けられているがコケ植物ではなく地衣類の仲間.
学名は,Cladonia rangiferina.

このトナカイゴケについての短いけれどおもしろい記事が,日本植物分類学会が発行しているニュースレター27号18頁に掲載されている.
「チイ便り・5 ~トナカイゴケを食べるトナカイの秘密~」

全文がPDFの形式で,学会のサイトからダウンロードできるので,興味のある方は一度ご覧になってはいかがだろうか.

http://wwwsoc.nii.ac.jp/cgi-bin/jsps/wiki/wiki.cgi

| | コメント (0)

2007年11月 8日 (木)

意外に高速 シャジクモの原形質流動

ビデオ撮影の関係で,シャジクモの原形質流動を顕微鏡で観察しました.
輪生する葉の細胞で観察したのですが,葉を数本採って水を垂らしたスライドグラスに載せ,あとはカバーグラスをかけるだけ.とっても簡単に観察できます.400倍で観察すると,視野内を20秒くらいで駆け抜けてゆくほどの早いスピードで原形質が動いてゆきます.正確ではありませんが,秒速30ミクロンくらいある感じです.いやー,驚きました.
(ネットで検索すると,実際は50-100ミクロン/秒ほどらしいです).

Wikipediaで調べると,最初に原形質流動が見つかったのが,まさにこのシャジクモなのですね.
『1772年、イタリアの顕微鏡解剖学者コルティ (B. Corti) が、シャジクモの細胞内容が循環運動していることを記載したが、あまり注目されなかった。』とあります.

関連するサイトは,
http://life.s.chiba-u.jp/yamamoto/web/sigoto2.htm

http://www.sci.u-hyogo.ac.jp/life/biomecha/Labinfo/Studyinfo/Kenkyuu/Chara/K_Chara.html

アクチン・ミオシン研究の好適な材料とのこと.

Youtubeには,オオカナダモの原形質流動の動画が登録されていました.これも驚き!
http://jp.youtube.com/watch?v=XVd_IXF-d9Q

同じくYoutubeで,「クマムシ」あるいは「Water bear」や「Tardigrade」で検索すると,クマムシの動画がたくさんでてきました.かわいいです.

| | コメント (0)

2007年11月 1日 (木)

苔類の弾糸

胞子を分散させる様子を撮影する必要があって,葉状苔類の弾糸を観察しました.

それまでなんとなく,完成した弾糸は胞子の塊をほぐしたり,はねとばしたりする機能を持っていると考えていたのですが,分類群によっていろいろな役割があるのですね.
教科書に書かれている常識的なことなのかもしれませんが,とてもおもしろいと思ったので書き込んでみます.

観察したのは,ケゼニゴケ,Asterella limbata(サイハイゴケ属),アズマ(ゼニ)ゴケなのですが,

1.ケゼニゴケの弾糸は非常に長く,多数のものが整然と並んでいます.片端が胞子のうの内壁にくっついていて,乾湿にともなう運動をほとんどおこなわない.これほど動かないとは知らなかったので,撮影の材料につかおうと考えていた私は,とても驚きました.
 胞子のうが裂開した後は,開いた綿の実のようにふさふさになっています.胞子は長い弾糸の側壁に並ぶように付着しているので,少しずつ放出されるのかもしれません.

2.Asterella limbataの弾糸は短くて胞子の数倍程度の長さしかない.乾湿に合わせてウネウネとよく動きます.乾いたときには,胞子の塊をほぐすというよりも胞子同士を結びつける感じで,弾糸を軸にして多数の胞子が塊になります.(このとき胞子表面の深い網目模様に弾糸が
ひっかかって,集合させるのに役立っているように見えます).
 サイハイゴケ属では,仮花被が深く裂けて胞子の出口用スリットをつくっているので,雨の時などこのスリットを通して胞子がでないようになっているのかもしれません.

3.アズマ(ゼニ)ゴケの弾糸は胞子のうには付着していなくて,かつ長くて,湿→乾という状態変化に際してよく動きます.裂開直前の胞子のうを3つに分割してしだいに乾いてゆく様子を見ていると,弾糸の激しい動きによって胞子の塊がほぐされ,かつはじき飛ばされて,瞬く間に胞子のうは空っぽになりました.あまりに見事なので,3分間ほど眼が離せませんでした.
ただ,この胞子のうはアルコール液浸標本から採ったものなので,自然界での動きとは異なるかもしれません.

今回観察したわけではありませんが,Frullaniaの弾糸は胞子のう壁の内側先端に付着していて裂開にともなってパチンと激しく跳ね上がり,胞子をまき散らすと書かれているのを読んだことがあります.

ゼニゴケの黄色(?)の弾糸はケゼニゴケのように胞子のう壁に付着していますが,よく動いて,胞子の塊をかき回していたような記憶があります.

弾糸の乾湿に伴う動きは,細胞壁の二次的な肥厚がらせん状になっていることと関係があるとのことですが,ただ,弾糸のこういった機能は,本来のものではないのではないのだろうと想像しています.胞子が成長する際,栄養補給を行うという,基本的な役割を果たした後の,いわば二次利用あるいは副産物のようなもの? (あたかも,蘚類の葉の翼細胞のように,,,)

(弾糸をもたない蘚類でも,胞子のうの中のある割合の胞子が機能を失って,栄養細胞になることがあるようです.イタチゴケ属でも普通に起こっていることでした.成熟した胞子のうの中に,茶色で萎縮した胞子がかなりの割合で緑色の胞子と混在するのがそれにあたります).

| | コメント (0)

2007年10月31日 (水)

コケにとってはジャングルも砂漠

 これまでにもコケ植物の図鑑はいくつか出版されていますが,日本の種類すべてを扱った浩瀚な図鑑が最近になってようやく出版されました.戦前から現在までに至る数多くの研究成果が盛り込まれており,この図鑑の完成で日本のコケ植物の戸籍調べは一段落したことになります.
 このような立派な図鑑ができたならば,すなわち分類に関する研究は終わりを告げ,たとえばコケ植物の分類学を専門とする私のような専門家は仕事を失って失業の憂き目にあうのでしょうか.ありがたいことにそうではありません.確かに日本の種類についてはひととおりの整理は終わりましたが,ひとたび国外に目をむけてみると,事情が全く異なります.日本のように詳しい図鑑が出ているのは世界の中では例外的で,世界の国や地域の中にはどんな種類があるのかさえほとんど分かっていない場所がまだたくさん残されているのです.しかもそういった調査の進んでいない場所は熱帯地域に集中していて,そこではまだ数多くの種類が未発見のまま残されているのです.つまり,コケ植物がもっとも多様な進化を遂げたと考えられている熱帯地域での調査研究が今後に残された大きな課題のひとつなのです.幸いなことに,日本はしばらく前まで景気がとても良かったものですから,国の援助をうけていくつもの調査隊が海外に赴き多数の資料をあつめてきました.それはほぼ地球のすべての地域をカバーするものです.私自身もインドネシアやマレーシア,台湾など東南アジア湿潤熱帯地域の各地でおこなわれた調査のいくつかに同行することができました.
 熱帯のイメージといえば,一年中湿度が高く樹木が密生する熱帯のジャングルがまずはじめに浮かぶのではないでしょうか.たしかに熱帯低地に生える樹木の中にはフタバガキ科を筆頭として60-70メートルの高さに達する超高木とよばれる種類があり,その下には背の高さによって高木,低木,灌木と分類される多数の樹木によって複雑で多様な空間がつくりだされています.高温多湿という植物の生育にとって最適の条件,そして林床から林冠にいたる実にさまざまな生育場所の存在,これらがあいまって熱帯は植物の種分化のパラダイスといわれています.しかしコケ植物はちょっと事情が違うのです.
 実際に熱帯低地に広がるフタバガキ科が生い茂る立派な森に踏み込んでみると,その林床はあまりの樹木の枝と葉の重なりのため太陽の光がごくわずかしか届かず,昼でも薄暗い環境です.日中の草原を歩き太陽の光にじりじりと焼かれる暑さの中から,一歩森の中に入ったときに感じる涼しさは実に対照的です.そしてコケ植物は一般に明るい場所が好きですから,このような暗い林床に生えるコケ植物はその種類と量が非常に限られてしまいます.つまり熱帯低地に広がるジャングルは,コケにとっての「砂漠」なのです.また,これはおもに南米の場合ですが,アマゾン川流域のように,広大な森林が広がっていても雨期には川が氾濫して水没するような場所では,林床が泥で覆われいるため体の小さなコケ植物は生きてゆくことができず,ここでもまた種類と量がきわめて少ないという報告があります.
 それでは,いったい熱帯のどこにいけばコケの楽園にであえるのかといえば,山岳地の中腹や頂上付近に広がる一年中雲や霧におおわれる雲霧帯,そこに展開するいわゆる蘚苔林(mossy forest)がその場所なのです.ここには,日本ではちょっと想像できないほど巨大なものや,逆にとても小さくて一枚の樹木の葉の上で一生を終える葉上蘚苔類と総称されるものなど,温帯にすんでいる私たちから見るととても珍しいコケ植物がたくさん見られます.例えばネジクチスギゴケの仲間はおよそコケとは思えないほどの大きさで,種類によっては高さ60センチ以上にもなりますから,ちょうど小学生の腰の高さくらいですね.逆に全長数ミリ程度のとても小さな種類も数多くあって,なかには樹木やシダの葉の上で一生をすごし,葉の寿命がつきて落ちるまでの時間だけそこで繁栄を謳歌する種類もあります.熱帯の樹木は大きな葉をつけるものが少なくなく,また常緑のため数年間の寿命がありますから,小さな種類にとっては住みやすい環境なのでしょう.じつは苔類の仲間ではこのような葉上苔類の種類が非常に多いことが分かっています.
 蘚苔林と呼ばれる場所では,「苔むす」という形容がぴったりなほど,様々な種類のコケ植物があらゆる場所を厚く覆っています.特に細い枝を包み込むようにコケ植物が生え,見かけが人の太腿くらいの太さになっていることさえ珍しくありません.着生しているコケの群落が大きくなりすぎて,重みに耐えきれずある日突然に地上に落下するほどです.
 熱帯でも標高が高くなると気温が下がり,雪こそ降りませんがそこには日本の山とよく似た背の低い樹木が生えるいわゆる山地帯が広がっています.そこには種こそ違いますが,ブナ科やクスノキ科といった日本でもおなじみの樹木が数多く生えています.こんな場所では,コケ植物も冷涼な気候を好む種類が優占しています. 
 どんな地域でもあっても,今の時代ではある程度しっかりした交通手段が発達していますから,コケ植物を求めて奥地に入る場合にも,それほどの困難はありません.しかしヨーロッパ諸国がアジア各地を植民地として支配しようと格闘していた数世紀前,珍奇な植物をもとめプラント・ハンターと呼ばれる人々がさまざまな地域で活躍していた時代では,野外調査には非常に多くの危険と困難をともないました.遠い異国の地で病気や事故のために命を落とした人も少なくなかったようです.昔の探険記を読んだりあるいは挿絵を眺めていると,そのころの苦労を想像することができます.植民地政策と密接に結びついていたこの時期の調査活動については,その是非を単純に論じることはできませんが,多大な困難をものともせずに植物探索をつづけ科学の発展に寄与した多くの偉大な先人の功績は,忘れられることはないでしょう.もっとも,採集の手伝いにかり出された現地の人たちこそ,いい面の皮だったのかもしれませんが.

| | コメント (0)

苔の秘密

すこしずつ本館から文書ファイルを移します。

下に掲載したのは小学生向けに書いた文章。
6年くらい前のこと。
今読むと、なんか勢いがあって懐かしい。

地味なコケたち 
 道ばたに生えるこけを調査をしていると,通りかかった人にこんな風に質問されることがある.「何をしらべているのですか?」
 もちろん僕は,怪しまれないように正直に答えることにしている.「コケです.コケを調べているんです.」
 この答えを聞いた人の反応は,はっきり二つに分かれる.まず,つまらなそうにさってゆく人.きっと期待した答えじゃなかったんだろう.その反対に,「コケ!なんとまあ,変わったものを調べているんだ.」と,感心してくれる人もいる.そして,からなずこう続く.「ところで,そのコケは何か薬になるのですか?」 きっと近所に住んでいる人で,役に立つのであれば自分でも探してみようと考えるのだろう.だから,「いえ,薬じゃないんです.研究のために集めているのです.」と言うと,ちょっとがっかりした感じになる.
 とても不思議なことに,多くの人にとって植物とは,それが役にたつかどうかが重要なのだ.植物の美しさ,おもしろい性質にも気づいてほしいのだけれど,そのためにはコケはちょっと地味すぎるのかもしれない.だから今日は,コケを応援するために,とっておきのコケにまつわるおもしろい話をしよう.

コケはどんな生き物?
 コケを手にとって観察してみても,シダや花の咲く植物とあまり違いはないように見えるかもしれない.けれどもよく調べてみると,からだ全体が茎と葉だけからできていて,根がみつからないことがわかるはずだ.地面に生えているコケを引っ張ると,すぐに抜けてしまうのはそのせい.大切に育てている庭のコケが,虫を探して地面をつつく小鳥たちのしわざで,ぜんぶはがされてしまうこともあるくらいだ.そのほかにも,胞子で増えること,葉は緑色をしていて光合成で栄養をつくりだせることも,コケの特徴だ.
 おもしろいことに,「なんとかコケ」という名前がつけられていても,それがみんな本当のコケばかりじゃない.例えば高い山に生えているコケモモは,ツツジの仲間でちゃんと花を咲かせておいしい実をつける.あるいは,庭の梅の木にはえるウメノキゴケという植物は,地衣類というキノコの親戚だ.平べったくて小さな植物のことを,昔の人はみんな「コケ」の仲間だと考えていたんだろう.

乾燥しても死なない
 お父さんやお母さんに聞いてみたら,暗くてじめじめした場所に生えるのがコケだよと教えてくれるかもしれない.ところが,コケの中には岩やコンクリートのように晴れた日が続くまったく水気がなくなる場所をこのむ種類もたくさんある.カラカラに乾燥させても死なないコケさえあるんだ.
 普通の植物は,水がなくなると葉がしおれ,最後には枯れてしまう.そうなったらもう生き返ることは不可能だ.ところが,コケの中には,何ヶ月ものあいだ乾燥ワカメのような状態でも生き続ける種類がある.手でもんでやるとまるでふりかけのようにバラバラになるけれど,それでも大丈夫.水を与えてやると,完全にもとどおりに生き返ることができるんだ.苔庭をつくる植木屋さんの間では,この性質を使ってこまかくくだいたコケを土にまいて増やす「まきゴケ」という方法が良く使われているくらいだ.

虫と仲良し
 試しにコケを食べてみると,とても嫌な味がするものが多い.それに口のなかでもそもそとして,とても食べたいという気分にはなれないものだ.だから長い歴史の中で人間はコケを食料にすることがなかったんだ.じつは栄養もあまりふくまれていないらしい.それと同じ理由で,虫や鳥,けものの仲間にもコケを食べるものはほとんど知られていない.僕の勤める博物館で大切なコケの標本をしまっておく場合も,防虫剤は必要ないくらいだ.食料としては,動物とコケの間にあまり親しい関係はつくられなかったといえる.
 ところが,意外なところでコケは動物たちの生活の役に立っている.それは,産卵場所や住みかとしてだ.たとえば,夏の初めに交尾をすませたゲンジボタルの雌は,川岸に生えるコケのかたまりに集まってくる.コケの葉に産卵するためだ.産み付けられた卵は,コケのやわらかいじゅうたんの中で乾燥と外敵から守られるのだろう.鳥の仲間にも,巣の材料としてたくさんのコケを使う例が知られている.いままでに報告された例では,木からたれ下がってはえる柔らかい種類のコケが特に好まれているようだ.
 中央アメリカには,コケを身にまとって敵の目をくらませるコケツユムシという虫も知られている.虫が自分でからだにくっつけるのは難しいだろうから,どうやって動く体にコケをはやすことができるのかとてもふしぎだ.深い森の中で他の虫に食べられずに生きていくには,きっと効果的だろうなと思う. 

| | コメント (0)

2007年10月28日 (日)

25532571_dawsonia_longifolia_mesila

キナバル公園で撮影したコケ植物を紹介。

日本にあるスギゴケ科でも、大きい種では
数十センチの達することがあるが、もっとも
背が高くなるのは、答案アジアからニュージー
ランドにかけて生育するDawsonia(ネジクチ
スギゴケ属)の仲間。沢沿いの土壌の深い所
では、地下部を含めると1mほどになることも
めずらしくない。

ネジクチスギゴケ属は、その大きさだけでなく、
他のスギゴケ科と違って、さく歯が糸状になって
いるのも大きな特徴のひとつ。

一般にさく歯は、大気中の湿度に反応して開閉
運動し、そうやって胞子が飛んでゆく量を調節
するのだが、ネジクチスギゴケ属のさく歯は不動で、
純白の糸状構造が胞子のう(朔)の出口をふさいでいる。
胞子嚢が風に触れると、隙間から胞子が少しずつ
でてゆくのだ。

一見すると、イクビゴケ科のさく歯のように見える。
類縁が遠くても、似た形態をしめす好例の一つと
いえるかもしれない。

(イクビゴケの蒴歯は、下の画像を見てください)
http://forum.mikroscopia.com/uploads/post-25-1137361515.jpg

| | コメント (0)

2007年10月22日 (月)

屋久島のヘチマゴケ属植物 続き

屋久島で見つけた赤黒い無性芽を葉腋に生じるヘチマゴケ
属の植物。標高1600m以上で、上部が樹林に覆われて
いない、日が差すような地面に生えている。よく湿った
場所に多く、そこでは無性芽がよく目立つ。すぐ近くの
それほど湿っていないところでは、緑色の無性芽をつける
ものがあり、野外では簡単に区別できる。

このふたつが果たして別種なのか、たくさんのサンプルを
持ち帰り調べているのだが、なかなか結論がでない。
形態や色は生育環境によってかなり変化するので、
葉の形や無性芽の形状だけでは結論がだせないのだ。
来週には人に頼んで、この二つの型についてrbcLという
遺伝子の塩基配列を調べてもらう予定。

もし同種ならば、生育環境の水分の違いによって、
生じる無性芽が異なることになり、面白いことになるかも。

コケ植物の無性芽には大きく分けて二種類がある。
一つは、無性芽が直接新しい枝に成長するもの。
この場合、無性芽は小さな枝と解釈できて、
寸が詰まってはいるが、葉や茎、そして茎頂には
成長点(頂端細胞)もそなわっている。これが
さらに成長してあたらしい茎になる。

もう一つは、無性芽をつくる細胞の一部から、
あらたに芽が生じるか、あるいは原糸体が伸びて
その上に芽ができるもの。コケ植物にはこのタイプの
無性芽が一般的。日本産ヘチマゴケ属では、一種を
除いてすべてがこのタイプである。

屋久島の赤黒い無性芽は、よく観察してみると
葉腋にありながらすでに枝として伸び出しているもの
も数多く見受けられるので前者にあたる。

和名で言えばキヘチマゴケに相当するのだが、
学名は混乱していて、今のところはPohlia
camptotrachelaになるが、実はP. annotinaが正しい
らしいのだが、まだ結論はでていない。いずれにしても、
これまで本種でこのような無性芽をつけることは報告
されていない。

Pohlia_21485_yakushima_8

左の写真は、同一の茎に生じている無性芽を並べたもの。 マス目は1ミリ。


高さ1センチにも満たない小さな植物で、毒にも薬にも
ならない地味な存在なのだが、調べてみるとそれなりに
興味深い姿が浮かび上がってくる。
もっとも、そんな地味な相手にああでもない、こうでも
ないともがいている自分は、さらに存在意義が希薄なの
かもしれないが、、、

| | コメント (0)

2007年10月 2日 (火)

赤い無性芽をつけるヘチマゴケ属植物

Pohlia20070926_7 屋久島の高所,明るく湿った土の上に群落をつくるヘチマゴケ属植物です.葉腋に各一個づつ無性芽をつけます.この無性芽,葉腋でそのまま成長をつづけ,枝状にのびてゆきます.このような性質もつ仲間はまだ報告されていないのですが,しいていえばツブツブヘチマゴケが近いかもしれません.(屋久島には両種ともあって,配偶体の形が違うので区別できます).

画像を載せておきます.

| | コメント (0)